KIROBO開発責任者が語る、トヨタにおける「KIROBO mini」というチャレンジ
2018年4月6日、東京ビックサイトで開催されたコンテンツ東京2018で、トヨタ自動車株式会社 片岡史憲氏による講演が開催。「KIROBO開発責任者が語る! トヨタのものづくりにおけるKIROBOの位置付け」というテーマで、「KIROBOの歴史」や「KIROBO miniにおけるチャレンジ」について語られました。
ロボット宇宙飛行士「KIBO ROBOT PROJECT」
初めて宇宙に行ったコミュニケーションロボットとして有名となった「KIBORO」の開発責任者を務めた片岡氏。KIBOROは、2013年8月10日から国際宇宙ステーションに滞在し、JAXA宇宙飛行士の若田光一氏と共に、世界初の宇宙での人とロボットとの対話実験に成功しました。
当時の様子は以下の動画とサイトで見ることができます。
未来の象徴であるKIROBOは、人とロボットが共生する未来社会を見据えてつくられました。この「人とロボットとが共生する」ために必要なものを、片岡氏は「日本人の”和”の心」と言います。「おもてなしの心」と「思いやりの心」です。
余談ですが、片岡氏が以前にカローラの製品企画に携わっていた時の部下が、現在新世代家庭用ロボット「LOVOT(ラボット)」を開発している GROOVE Xの林要氏だったそうです。偶然とは言え、興味深いエピソードです。
TOYOTA HEART PROJECT から生まれた「KIROBO mini」
長年クルマを開発してきたトヨタが、どうしてKIROBO miniというコミュニケーションロボットを手がけたのでしょうか。
そのヒントは「愛車」という言葉にあります。
クルマと同じ空間で同じ時間を過ごした思い出や、ステアリングやペダルの仕掛けにコミュニケーションをとるように反応してくれることが、クルマに愛着やパートナーと感じることになると言えるでしょう。
この「かけがいのないパートナー」をクルマだけではない、別の形で表現するチャレンジが「TOYOTA HEART PROJECT」です。この成果にはロボット宇宙飛行士「KIROBO」に感じた「思いやりの心」と、コミュニケーションパートナー「KIROBO mini」の誕生があります。
また、トヨタが提唱する「withコンセプト」というものがあります。「いつも寄り添い、心を通わせる」というものです。この中には以下の7つの要素があります。
共感:心が動く、心を感じる
共有:思い出を共有する
共生:人と共生する
共在:併せ持つ、かしこい頭とやさしいこころ
共育:成長する、自分に合わせて変化する
共創:共につくる
コミュニケーションパートナーとは「心のキャッチボールができる」存在です。
具体的にはいつも寄り添いながら、会話などから愛着と信頼を生み、相手のことを覚えて成長するというようなことと言えます。
現在、同じく音声でやり取り出来るスマートスピーカーが各社から発売されてますが、コミュニケーションパートナーはそれらと明らかに異なるということについてのお話も片岡氏からありました。
タスク型のサービス・機能に対して、ノンタスク型の雑談のような「思いやりの心」をバーバル(言語)だけでなくノンバーバル(非言語)のビジュアル(見た目、動き、表現)やボーカル(声色、トーン)も合わせることで、心を感じたり心を動かすように表現しているとのことです。
トヨタハートシステムの基本構成
こちらがトヨタハートシステムの基本構成図です。
現在、KIROBO miniは、HEMSサーバ経由でトヨタホームの住宅と連携、T-Connectサーバ経由でトヨタの一部車種との連携が行えます。
KIROBO miniとコミュニケーションを重ねることで、クルマやおうちの気持ちも分かるようになり、暮らしに寄り添った会話を楽しむことができます。
キロボミニにおけるトヨタのチャレンジ
トヨタ自動車はKIROBO miniで3つのチャレンジをしています。
1つ目は、先程の「思いやりの心」や「やさしさ」といった「情緒的(エモーショナル)価値に重き」をおくというチャレンジ。2つ目は、「成長しながら一緒にパートナーになっていく」というチャレンジ。3つ目は「生まれたてで未完成」というチャレンジです。
「未完成のクルマ」を世に出すことがないトヨタ自動車が、「未完成のもの」を製品として世に出したというのが、KIROBO miniのチャレンジと言えます。
これは「未完成=余地を残す」ということで、KIROBO miniをwithコンセプトの「共育」「共創」でコミュニケーションしたり、一緒に過ごすことで愛着や家族のように感じ、かけがえのないパートナーになっていくという考えがあるそうです。
KIROBO miniがホームスティにやってきた内原さん家の以下の動画を見ると、トヨタ自動車のコンセプトやチャレンジに対する「結果や気づき」が伝わってきます。
今回の講演では、KIROBOから今に至る歴史、競合との違いを差別化した点がお客にとってどう感じられ、どのように心が動いて変化を生じさせたのかを知ることができました。今後のKIROBO miniの展開が楽しみです。
(トップの写真は2016年開催のトークショーより)
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北構 武憲本業はコミュニケーションロボットやVUI(Voice User Interface)デバイスに関するコンサルティング。主にハッカソン・アイデアソンやロボットが導入された現場への取材を行います。コミュニケーションロボットやVUIデバイスなどがどのように社会に浸透していくかに注目しています。