ロボットの部活に161名 芝浦工大附属中高の「電子技術研究部」が人気な理由

豊洲駅から歩いて6、7分。再開発が進む駅周辺の一角に芝浦工業大学附属中学高等学校(以下、芝浦工大中高)はある。2017年に新校舎が完成したばかりで、道路沿いに面した開放感のあるエントランスが印象的だ。




同校は、芝浦工業大学の付属校として、中高大一貫教育によって理工系人材の育成を目指す、全国的にも珍しい教育カリキュラムを持つ。中学一年生から高校三年生まで、およそ1100名の生徒が在籍。専門性の高い芝浦工大中高の人気は年々高まり、現在は5倍もの入試倍率になっているのだという。



人気の電子技術研究部、新入部員は64名


そして、その人気の核を担っているのがロボットやプログラミングを学べる部活「電子技術研究部」だ。同部活には、全校生徒の7分の1となる161名が在籍。今年の春に入学した中学1年生からは64名もの新入部員が生まれた。


今年の中学一年生の新入部員は総勢64名

新入部員の何名かに、この部活を選んだ理由を尋ねてみると、「この学校に来たからには電技研(電子技術研究部)に入ろうと思った」「小学校でロボットを学んでいて、中学でもやりたいと思った」と話してくれた。最近は小学生の習い事の一つとしてロボットも注目されており、中にはすでにロボットプログラミングの経験者もいるようだ。


電子技術研究部では、レゴの教育用ロボット「マインドストーム」を用いてロボットプログラミングを学んでいる。ロボットのプログラミングだけでなく、ゲーム開発も学ぶことができる。このようなポスターも生徒たちが作っているという。


生徒が生徒に教える

芝浦工大中高の電子技術研究部は全国的にも有名だ。国際的なロボットコンテスト「WRO」においても、中学・高校共に昨年はプレゼン審査で全国優勝を果たすなど、好成績を残している。

さぞかし技術教育に特化しているのかと思いきや、同部活の顧問である岩田亮教諭は「今は技術力を高めることを最優先にはしていない」と語る。


芝浦工業大学附属中学高等学校 岩田亮教諭

6年前に電技研の顧問となった岩田先生は、まず「技術力を高めて、競技大会での上位入賞を目指した」のだという。実際にWROの全国大会でも毎年上位入賞を果たすようになった電技研だが、岩田先生はそれ以降「他人に教えること」を重視するようになったのだと話した。

「背景には、生徒らの将来を優先したことがあります。勝ち負けよりも大切なこと、それは他者へ説明したり、教えたりする力だと考えています。一生懸命に取り組んだことを、最終的にはワークショップを企画して生徒が生徒に教えることも重視するようになりました」(岩田先生)。


取材当日も上級生が下級生をサポートしていた

上級生が下級生に習ったことを教えていく。教える経験をすることで自身の知識をさらに深めることができ、さらに外部に対して教える機会があれば研究成果を広めることができる。そしてそれは社会貢献にもなる。

電技研では自分たちが進めるプロジェクトの資金調達を自ら行うケースもあるといい、まるで大学生たちがやるようなこと、いや場合によってはそれ以上のことを中学・高校生の時から経験しているのだ。学生たちは主体的に動き、自分たちで研究テーマを考えて、それをプレゼンし了承を得てプロジェクトをスタートする。そのゴールは研究内容をまとめることではなく、やはり「研究した結果をワークショップ形式で他人に教えること」だ。

現在中学三年生だという須田くんは、昨年WROに出場した際のプログラミングの成果をテキスト教材にまとめる作業をチームメンバーと共に行なっていた。


テキスト教材用のプログラミングを試す様子。チームメンバーと須田くん(中)

「実際に競技をしてみると、会場によって光の強さも違うため、それに対応できるようにするための方法も記す必要があるんです」と須田くん。プログラミングの方法をまとめていくだけでなく、実践的な内容も含んだテキストになる予定だ。

「学生のうちから社会との接点を持って欲しい」という岩田先生の考えから、学校外でワークショップを行うケースも多い。



電子技術研究部の高校生たちは今年3月、同じく豊洲にある「キッザニア東京」にて、レゴの中学生向けのワークショップを行なっていた。これはキッザニア中学生限定の日「第5回 ジュニア チャレンジ ジャパン」で行われたワークショップで、芝浦工大附属高校の生徒たちが中学生を相手にロボットのプログラミングを丁寧に教えていた。



参加者一人につき生徒一人が教えるワークショップ。教えるのが得意な子が先生役になるのではなく、全員が先生役となる。参加者が中学生だったからかもしれないが、生徒たち(高校生)が実際の年齢以上に大人びて見えたのが印象的だった。



プログラミング教育ができる教師はいるか

電子技術研究部のような部活は、他校でも作ろうと思えば作れるものなのだろうか。岩田先生に「作り方」を尋ねたところ「なかなかハードルが高いと思う」という回答が返ってきた。

「本校は、昨年4月に板橋区から芝浦工大のある江東区豊洲に移転し、環境がとても充実しました。理工系教育に特化した学校でもあるため、普段、授業で使用できる教室も加工技術室、ロボット技術室、コンピュータ室と3部屋あり、部活でも同様に使用できます」と遠慮がちに答えた岩田先生。また、官公庁や企業との共同企画や外部ワークショップも実施しており、部活の活動費用もときに外部から調達する。機材を揃えるのも当然ながらお金がかかるのだ。


電技研が活動する教室の隅には多数のロボットが並ぶ

岩田先生は、ロボットを動かすためのプログラミング技術はもちろんのこと、大学院時代の専門は機械設計工学と、知識の幅が広い。ものづくりをしてきたベースがあるからこそ、子供達から聞かれたことに対して答えることができるのだ。学校では技術の授業を担当しながら電技研の顧問をしている。こんなにプログラミングの知識をもつ先生は、全国を探してもなかなかいないだろう。

プログラミング教育の必修化に向けて、学校の教職員向けのセミナーなども全国各地で開催されている。しかし、芝浦工大中高と同じような教育水準を他校で真似することは相当に難しい。すると、子供達を民間のプログラミング教室に通わせようという話になってしまうが、月謝も安くない。

日本の子供達に行き届いたプログラミング教育を施すためには、民間企業から学校への転職を促したり、企業と学校がもっと結びつく構造を作る必要がある。そう感じた取材だった。

ABOUT THE AUTHOR / 

望月 亮輔

1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。

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