アマゾンエコー誕生秘話「もしも無限に演算処理とストレージを使えるとしたら」
アマゾンが世界初のスマートスピーカー「Amazon Echo」を米国市場に投下したのは今からおよそ4年前、2014年11月のこと。以降、アマゾンを中心に、スマートスピーカーという新たな市場が立ち上がった。当初はアマゾンプライム会員および招待者にのみ販売され、翌年から一般販売が開始された。その後、Google、Apple、アリババ、LINEなどが追従している。
今でこそ日本でも当たり前に見かけるようになったスマートスピーカーだが、アマゾンはどういう経緯で「Amazon Echo」というプロダクトに至ったのだろうか。そして、デバイスを作る上でのデザインに対する考え方とは。Amazonのデバイス責任者デイブ・リンプ氏に話を伺った。
アマゾンがエコーを開発した経緯とは
すでに当たり前のように家電量販店でも販売されているスマートスピーカーだが、その最初期モデルであるEchoをAmazonが開発した経緯は、日本国内ではあまり多く語られていない。Amazonはそもそもどういう経緯でスマートスピーカーという製品に至ったのだろうか、リンプ氏に尋ねてみた。
デイブ・リンプ氏
私たちがEchoを開発した当時、アマゾンの内部では二つの大きなトレンドが生まれてこようとしていました。まず一つは、アマゾン全体でクラウドを使い始めるようになって、それが非常に役立ち、規模が大きくなってきていたこと。つまり業界がクラウドコンピューティングのパワーに気づく前から、アマゾンの内部ではそのトレンドがわかっていたのです。そして、ほぼ同時期に、機械学習やAIが台頭し始めていました。そこでエンジニアチームに問いかけたのです。
「もしも無限に演算能力とストレージを使えるとしたら、AIとクラウドを使って何ができるかを考えてほしい」と。
そこでまず出来上がったのは、Amazon.comでのレコメンドエンジンだった。商品ページに関連するおすすめ商品を掲載する。ここにAIを活用した結果、リンプ氏によれば「非常に効果が出た」のだという。
デイブ・リンプ氏
もう一度、社内のエンジニアに対して問いかけました。他にどんなことができるかを考えてほしいと。このようにエンジニアに問いかけ続けていたところ、クラウド上で自然言語処理ができるようになり、Alexaが生まれました。つまり、Alexaが生まれたのは社内で何度もクラウドコンピューティングをどうやって活用できるか、AIをどう活用できるかを構想した結果です。
ここまでがAlexaが出来上がった背景だ。それではどうEchoが生まれたのか。
デイブ・リンプ氏
ここから、チームで新しいプロダクトを構想し始めました。私たちはマイクロフォンアレイと演算処理能力で、ローカルなAIでも十分な能力が持てるようになりました。エコーキャンセリングや特定の音を切り出すことが、少ない処理能力でできるようになったことが大きかったです。
次に、今あるこのマイクロフォンアレイを「どんな形状にすれば一番お客様が使いやすいだろうか」と考えるようになりました。そこで様々な実験を行なってみましたが、一番反応が良かった使い方が「音楽」でした。そこで、まずは音楽が聴けるスピーカーとして注力しようとなったわけです。そこでスマートスピーカーというものが初めて生まれました。
つまり、デイブ・リンプ氏が言うには、Alexaが生まれたのは、新しいトレンドにあるクラウドコンピューティングとAIを活用して何ができるかをエンジニアに問い続けた結果であり、エコーが生まれたのは、それを最適な形でユーザーに届けようとした結果だということだ。Alexaを活用するためにマイクの数を増やして音声の聞き取り精度を上げ、それをまずは音楽という用途に落とし込んだ。
デイブ・リンプ氏
ローンチ時のアマゾンエコーは、13種類のことしかできませんでしたが、今では数万を超える様々なことに対応できるようになりました。ただ、13種類の中でどれが人気な機能になるかはわかりませんでした。当初からあるユースケースが、今でも非常にヘビーに使われていたりもします。例えば、音楽以外にも、アラームやタイマー、ショッピングリスト・ToDoリスト、天気予報、一般的な情報検索など。当初から気に入っていただいた機能は時間をかけて改善しています。
こういったことは、ローカルな処理が少なくて、ほとんどのことをクラウドで任せているからこそできるのです。
Amazonはドラえもん型デバイスを作るか
エコーは、「どういうデザインがユーザーが音楽を聞くために最適かを考えて作られた」と話したリンプ氏。アマゾンが作るデバイスのデザインは非常にシンプルなものだ。一方で、日本ではLINEがドラえもん型のスマートスピーカーを発売し、今後ミニオンズのスマートスピーカーの発売も予定している。ドラえもん型のスマートスピーカーは、大人気で、発売後すぐに品切れになった。
アマゾンは、このようなキャラクター化した、親しみあるスマートスピーカーを作る可能性はあるのだろうか。
デイブ・リンプ氏
Amazonでのキャラクターコラボのプランはありません。ハードウェアとしてキャラクターやパーソナリティを持たせるところは、サードパーティにお任せした方が良いと思っています。
私たちの基本的な考え方は、まずデバイスであるからには見た目に美しいデザインであること。置かれた環境にうまく溶け込めるような見た目を重視しています。ハードそのものに個性を持たせるというよりは、Alexa自身にパーソナリティを持たせることを意識しています。
アマゾンは、Alexaを搭載したデバイスをサードパーティが開発することを推奨している。例えば、「Eufy Genie」という製品をAnkerが販売している。ある意味Echo Dotとの競合にあたる製品だが、アマゾンは「ユーザーの選択肢が増えることが望ましい」と話す。
アマゾンからすれば、自社製のAlexaデバイスが売れても、サードパーティ製のAlexaデバイスが売れても、どちらも同じくらい望ましいことなのだ。その理由は、アマゾンがどのようにデバイスの価格を決定するかという話からも理解できる。
デイブ・リンプ氏
私たちのビジネスモデルは、お客様がデバイスを買った時でなく、使って頂いた時に利益が生じるビジネスモデルです。つまり、「デバイスの販売価格は、ほぼ製造コスト」だということ。通常の家電メーカーは、製品のソフトウェアのアップデートを途中でやめてしまうということが多いですが、我々はソフトウェアのアップデートに注力しているので、例えばエコーの場合にも週に一回のアップデート、場合によっては一日単位でアップデートを行なっています。
従来の家電メーカーでは、新しいデバイスを販売して、1-2年経ったら新しいハードウェアに買い換えてもらわないとビジネスが成り立ちません。ただ私たちのビジネスモデルでは、長い期間に渡って同じデバイスを使って頂いても、とても嬉しく思うのです。
「Amazon Prime」や「Amazon Music」などのサービスを売上の軸に展開しているアマゾンエコー。ハードウェアの性能やAlexaの性能もさることながら、Amazonが一番自信を持っているのはそのビジネスモデルなのかもしれない。
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望月 亮輔1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。