クリエイターのきゅんくんと東大RoboTech部長の河村氏が「AI/SUM」で対談

日本経済新聞社が主宰するAI活用をテーマにしたカンファレンス「AI/SUM APPLIED AI SUMMIT AIと人・産業の共進化(https://aisum.jp/ja/)」が、2019年4月22日〜24日の日程で東京・丸の内で開催されている。2日目の23日は「ロボティクス:次世代のリーダーたちが描く人とロボットの未来」と題されたセッションが行われ、ロボティクスファッションクリエイター/メカエンジニアのきゅんくんと、東京大学工学部 機械工学科所属でロボコンサークル「RoboTech」部長の河村洋一郎氏の二人が対談した。モデレーターは経済産業省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室 課長補佐(総括)の栗原優子氏がつとめた。


経済産業省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室 課長補佐(総括) 栗原優子氏

はじめに経済産業省の栗原氏はロボット政策室での業務を通して、「ロボットを作ることは未来を作ること。特に今と非連続な世界を作っていくもの」だと感じていると述べた。今後、数年先も見通せない未来を創造していくのは若者だということで、今回、特に存在感を発揮している二人の若者に対談してもらいたいと考えたという。なお、きゅんくんは1994年生まれ、河村氏は1996年生まれ。栗原氏は1987年生まれである。



人とロボットがゼロ距離で接するときに何が起こるのかを知りたい きゅんくん

ロボティクスファッションクリエイター/メカエンジニア きゅんくん

きゅんくん(http://kyunkun.com)は、着用するファッションとしてのロボット「METCALF(メカフ)」シリーズを開発している。パワーアシストスーツのようなロボットではなく、そういう意味で役に立つ機能は持っていないロボットである。素材はアルミやプラスチックで、制御方法は単純なプレイバックもあれば、スマホからのコントロール、ジャイロを使ってダンサーの動きと連動させるなど、バージョンによって様々だ。

ウェアラブルなロボットというと「身体拡張」と考えられることが多いが、きゅんくんのロボットはそうではない。ロボットのような「他者」と、ものすごく距離が近くなったときに、人間がどう思うか、何を感じるかに興味があり、あくまでファッションとしてのウェアラブルロボットだという。そして、人間の人間らしさと機械の機械らしさの関係や、プロダクトデザインが入ったロボットとは異なるメカの魅力を一般の人に触れるかたちでリリースできないかと考えて、現在の活動を行なっていると述べた。

人間と機械、それぞれを尊重するためのウェアラブルロボットであり、人間と機械がゼロ距離で接する、すなわち人がロボットを身につけたときにどんなことを感じるのかに興味があるという。また、本来目的を持って生み出される機械が、特定の目的を持たずに生まれてくることによって逆説的に個性を持つようになるのではないかとも考えていると語った。

きゅんくんのロボットは動くウェアラブルロボットなので、着用した人は、その動きを自らの身体で直接感じることができる。その動きを通したノンバーバルなコミュニケーションにも関心があると述べ、これまで開発してきたメカフのラインナップなどを紹介した。

「メカフ」とはメカと服から作った言葉だ。きゅんくんは、ファッションの本質は「情報」にあると考えており、「情報を身にまとう服」として作っているという。

きゅんくん自身は、ファッションクリエイターとしての顔だけではなく、「tsumug」というコネクティッド・ロックの会社のエンジニアという顔も持っている。社会との関係を失わず、ハードウェアだけではなくサービスとも連携して必要なハードを開発していこうとしているという。

ロボット開発者になろうと考えたのは小学生のとき。当時、ロボットクリエイターの高橋智隆氏のロボット「クロイノ」の動きと、その開発風景を見て憧れたことがきっかけ。小学校の卒業文集にも「将来はロボットを作る仕事をしたい」と書いたという。

そして中学生で電子工作をはじめる。その後、被服部の活動を通してテクノロジーを軸に服を作りたいと考えるようになる。高校生の時には展示会などに足を運ぶうち「私ならこのかっこいいアート作品を動かせる」と思うようになり、アーティストに技術を提供したいと考え始める。そしてアーティストたちからも「この人(きゅんくん)に技術提供してもらいたい」と考えてもらうために、自分自身の作品を作り始めたのだと経緯を紹介した。

その後、大学で一時ロボコンのサークルに所属して、3DCADや板金技術を身につけ、オリジナルのロボット開発と衣服の合体を始めたという。




強みは多様性とトータルでロボットを捉えて最適化していること 河村洋一郎氏

東京大学工学部 機械工学科 情報システム工学研究室(JSK)、東大「RoboTech」部長 河村洋一郎氏

東京大学工学部 機械工学科所属で、東大「RoboTech(https://tuk.t.u-tokyo.ac.jp/robotech/)」部長の河村洋一郎氏は、直近の大会ではNHKロボコン優勝、ABUアジア・太平洋ロボットコンテストでベスト4になった「RoboTech」の活動について主に動画で紹介した。ロボコンは毎年ルールが変わり、短い開発期間で対応する能力が問われる。また大規模なチームで開発するので組織マネジメントも必要だし、自動制御などの技術も当たり前となっている。

東大RoboTechは国内大会では長年のライバルである豊橋技術科学大学も下し、優勝した。豊橋技術科学大学は高専からの進学が多いが、東大はロボット開発初心者も少なくなく、初学者を一人前のロボット開発者にするためのカリキュラムも用意されており、毎年更新されているという。

2018年の世界大会はベトナム。ベトナムは国の力の入れ方がすごかったという。東大チームはトラブルにも見舞われ、予選はギリギリの勝利となり、結果はベスト4で終わった。

国内では圧倒的な力を持つ東大「RoboTech」の強みは、機械・回路・制御などの各技術について個別に詳しい人たちが集まっているのではなく、「ロボットは一つのデザインなので、全体として最適化するということが、チーム全体に徹底されている」ことにあると述べた。また、機械工学系の学生だけではなく、物理学や化学、都市工学など多様な学科の学生から構成されていることも強みだと考えているという。

いっぽう、アジア勢と比べると特にお金の問題で苦しんでいると述べて、いま、企業スポンサーや寄付も募集していると紹介した(RoboTech支援基金、http://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt103.html)。海外チームと比べると環境の差は歴然としており、たとえば中国は練習場所も10倍くらいのスペースで取り組んでいるという。


支援基金も募集中

現在は次の大会に向けて4足歩行ロボットを作っているとのこと。特に技術的にアピールしたい点として「完全に1から作っている」ことを挙げた。基板や回路の設計、コミュニケーションプロトコル、ライブラリも全て自分たちで作っており、ロボットに関連することに関しては「ローレベルから全部わかっている人が集まっている」と述べた。

なお、東大チームはこれまでは秘密主義だったが、今は方針を変更。2年前までのロボット技術は積極的に公開していこうと考えており、東大チームだけではなく日本全体で強くならないといけないと考えているという。

ちなみに、現在開発している4足ロボットは、かなりすごいものとのことだ。それも大会終了後には保管場所がないためバラしてしまうが、大会終了から時間が経ったら各技術については公開して、日本全体を底上げしたいと述べた。



人とロボットはどういうかたちで共生していくのか

きゅんくんのメカフを装着する河村氏

時間の都合で短時間ではあったが、議論も簡単に行われた。栗原氏はまず、人とロボットは今後どういうかたちで共生していくと思うかと質問した。河村氏は「日本にはロボットは友達という文化があるし、ごく身近に受け入れられると思う。今は工場や倉庫のなかで使われているが、徐々にコンビニなど店舗でも使われるようになり、最後は道路や家のなかへと広がってくる。それが当たり前として受け入れられると思う」と語った。なお河村氏は物心つく前に科学未来館のASIMOの展示を見て大喜びしたことがあるそうで、今も東大・稲葉研究室でヒューマノイドの研究に携わっている。

きゅんくんは「ウェアラブルでパワードスーツ以外をやってる人が私以外いないんじゃないかと思った」と述べて、学生としても「人間とウェアラブルロボットのソーシャルタッチ」、人間とロボットの社会の関わりについて研究をしようとしているという。また、メカエンジニアとクリエイター、そして学生という3つの顔を持っていることは、働き方としては新しいのではないかと述べた。

きゅんくんや河村氏のようになるにはどんな家庭環境・社会環境が必要なのか。これについては二人とも「様々なものを見せてもらい、概ね好きなことをやらせてもらえた点がよかった」と述べた。河村氏は「ものすごく能力が高い人たちが周囲にいることがよかった」と語り、きゅんくんは「今なら好きなものにたどり着くのも、もっと近道ができる」と述べた。



実世界とデータの世界 ロボットがロボット自体の力で賢くなる時代へ

きゅんくんと河村氏

会場からの質問にも答え、AIとの関わりについては、河村氏が「ロボットと強化学習はいいマッチング。実際に動かすと分かるがロボットは思ったとおりに動かない。今まではそれを職人が時間をかけてチューニングしていた。ロボット自身の力でロボットが動くとならないと、もう一段先には進まない。ロボコンは決まったフィールドで動いているのでそこまではしないが、複雑なモノになればなるほど何かをさせるためには必要になると思う」と語った。

基本的にハードウェアの人であるものの、ROSへの取り組みを通してPython、そして機械学習にも少し手を出し始めているというきゅんくんは「ロボコンはタスクは見えやすいが、実世界ではタスクが見えにくい。ロボコンで培った技術を実世界に持っていくにはどうすればいいと思うか」と河村氏に質問した。

河村氏は「実世界で動かすロボットは微妙な差に敏感。ロボットの世界とデータの世界は質的に違っている」と続け、ハードウェア単体のみならず周囲の環境も含めて考えるという経験は、ロボコンで大いに学ぶことができたと答えた。中国ではロボコンのバドミントンロボットがそれを元に起業し、ホテルなどに販売して人の練習相手になっているという展開もあるそうだ。

最後に二人はそれぞれ、「3足のわらじで頑張っていきたい」(きゅんくん)、「ロボットをやりたい新入部員は増えている。若い人たちを応援してもらいたい」(河村氏)と対談を締めくくった。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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