チラシを配る3体のPepper達が子供たちに大人気!人気の秘密は「3体ちがうキャラクター付け」と「チラシ配りテクニック」
「Pepperは使えない」
「ちゃんと働いているPepperは、はま寿司だけ」
Pepper発売から4年が過ぎ、そんな印象を持ってしまっている読者もいるのではないでしょうか?
ところがなんのなんの、神奈川県のJR辻堂駅直結の大型ショッピングモールに「子供たちに大人気の3体のPepperたちがいる」というので見にいってきました。これが凄いことに!
場所は「テラスモール湘南」内の2階のインフォメーション近く。そこには赤、青、緑のネオンがついたPepperが3体横並びに立っています。実はこの3体のPepperにはそれぞれ違った個性が与えられているのです。
イベントが始まるとPepper達は三者三様に掛け合いのおしゃべりをしながら、器用に1枚ずつホルダーからチラシを取り出して配っているのです。喜んでチラシを受け取ったり、恐る恐るチラシを受け取ったりと、様々な反応の子供たち。
受け取った後は「ありがとうございます!」とPepperからお礼を言われ、一様に一緒に買い物に来ている両親のところに走って「もらったよ!」と嬉しそうに話していました!
始まりは白井ゼミのプロジェクト「SHOP KEEPER PEPPER」
今回の実証実験の責任者である慶應義塾大学SFC研究所の上席所員でFCL代表の白井宏美さんに実証実験の経緯を伺いました。
編集部
Pepperでチラシ配りというのはユニークですが、この実証実験の主旨と背景について教えてください。
白井氏
平成28年度白井ゼミの研究プロジェクトのひとつSHOP KEEPER PEPPERが始まりでした。社会言語学の観点から、人を惹きつける要素に関して、言語・非言語行動の両面から研究した成果を、飲食店における人とロボットの共生に応用できるかどうか検証するために立ち上げたプロジェクトです。
平成29年度には、実際にサンドイッチ店のサブウェイで実証実験ができるようになり、Pepperに人を惹きつける発話やモーションを組み込み、注文待ちのお客様にユーモアを交えながらおすすめメニューを紹介したり、オーダーのコツを説明したりすることにより「愉快な待ち時間の提供」と「オーダースムーズ化」を目指しました。
観察・分析を続けるなか、もっと人型ロボットの身体性を活かしたコミュニケーションを図り、心的距離を縮める方法はないだろうかとゼミ生と議論を重ねた結果、「チラシ配り」というアイデアが生まれました。マッキー小澤さんに技術面でご指導をお願いし、Pepperが胸のホルダーから1枚だけチラシをつまみ出して手渡すことや、タブレットをホルダーで隠すことにより、人はPepperの目を見るようになり本当の意味での人とロボットのふれあいが実現してきました。その後平成30年度には、神奈川県「公募型ロボット実証実験支援事業」に採択され、本格的にサブウェイでのチラシ配りの実証実験を始めることができました。
編集部
人とロボットの共生がテーマなのですね。今回の実証実験はどういうプログラムなのですか?
白井氏
今回は神奈川県「ロボット共生社会推進事業」に採択され、Pepperを3体に増やし、大型ショッピングモールでの3体連携チラシ配りを実施することができました。体制は、このようになっております。
編集部
今回の実証実験では何を検証する予定でしょうか?
白井氏
平成30年度の神奈川県「公募型ロボット実証実験支援事業」実証実験では、Pepperがチラシを配る際、腕の角度や声かけのタイミングなどが、チラシを受け取ってもらえるかどうかを大きく左右することがわかりました。そこで、今回は腕の角度や声掛けのタイミングでチラシを受け取ってもらえる成功率が上がるかを検証し、改善に役立てることを目的としています。また、Pepper1体では目立たないということもわかったため、今回はPepperを3体に増やし、キャラを立たせて、来店客の目を引くことができる3体連携チラシ配りの成功を達成目標としました。
3体のPepperを使って注目を集める工夫
編集部
キャラを立たせた3体のPepperを扱うのは大変だったと思いますが、どのような工夫があったのでしょうか?
白井氏
テラスモール湘南様から「Pepper1体でいるのは見飽きてしまった、3体ぐらいいると目立っていい」というご意見をいただきました。3体にするのは、様々な面で非常に難易度が上がります。そのため、さらにForex Robotics株式会社の高橋一行さんにも技術面でご指導を賜りました。
ただ、3体になると社会的役割を持たせることができるようになる点では、キャラ付けはしやすくなると考えました。
そこで今回は、誰にでも分かりやすい、レンジャー設定にすることにしたんです。3体をレッド、ブルー、グリーンと名付け、名前に合わせてペッパーの身体もLEDで色づけることにしました。
そして、それぞれヒーロー、ヒール、ピエロという役割を与え、さらに一人称を「俺」「僕」、二人称を「おまえ」「君」というように使い分け、発話スタイルも下記のとおり、三人三様にしました。
また、いきなりチラシを配り始めるのではなく、3体で発話の掛け合いを行い、何のチラシを配るのかについてユーモアトークで説明することで、お客様の注意を喚起し、子供たちをも惹きつけることができるよう工夫しました。
たかがチラシ配り、されどチラシ配り。開発の苦労の裏側
今回の実証実験のポイントである3体のPepperのキャラ付けの工夫等の企画に対し、技術的な工夫などで開発のアドバイザーを担当したマッキー小澤さんにお話を伺いました。
編集部
マッキー小澤さんはPepperを使ったマジックなどをされていますが、今回の実証実験のアドバイザーをされた経緯について教えて下さい。
小澤氏
この企画のアドバイザーを務める以前から白井ゼミの学生さん達にゲストアドバイザーとして、Pepperロボアプリ開発に必要な技術指導などを実施して来ました。また「魔術的ロボユースケースデザイン」の講師を務め、Pepperのマジックを通じて開発してきた経験を活かし、お客様に感動と驚きを感じてもらう作品作りをできればと考えお手伝いしました。ただ今回の企画ではかなりムチャ振りが多く、新たなチャレンジの連続でした。
編集部
今回、3体のPepperを連動させて掛け合いをした後にチラシ配りをするという構成ですが、全体的なシステム構成を教えてください。
小澤氏
全体的なシステム構成はこんな感じです。(Pepper本体 ✖️ 3台、IoT wio node(間接照明制御及び光センサー検出) ✖️ 3台、チラシホルダー 3台、チラシ取り出し指ギミック 3個、スマホ(リモコン用) 1台)会話およびチラシ配りの切り替えは、制御用のスマホからホストのPepperに指示を出し、残りの2台に通知する形をとっています。
編集部
Pepperが上手にチラシを1枚1枚取っているのですが、どうやって実現されたのですか?
小澤氏
色々と試して束のチラシから一枚を取り出す為、Pepperの指とチラシの間の摩擦の最大化とタブレット前に付けたホルダーの角度を設定しました。あと指ギミックは長い使用に対しても適度な粘着性を保つ素材にたどり着くまでかなりの試行錯誤がありました。お客様がチラシを受け取ってくれたかどうかの判定は、腕に付けた光センサーをwio-node経由で実装し、チラシをホルダーから取り出せたか、チラシを取ってくれたか、を検出しPepperに通知しています。
編集部
この実証実験で開発した期間はどのくらいでしたか?
小澤氏
今回の企画に関しては、約半年ですが開発部門へのアドバイザーとして基礎的な実験に多くの時間を費やしました。
編集部
開発期間中にあった問題点や課題などあれば教えてください。
小澤氏
基本的には低予算で機能を実現しなければいけないため、100円ショップや自作センサーなどを作成して対応しました。これまでの私の作品は、Pepperのマジックコラボを通じてロボットが失敗してもアドリブで対応していましたが、この企画は業務用のアプリであり失敗しない実用に耐えることが前提にあります。そのため業務用のPepperアプリに精通されたForex Robotics株式会社の高橋さんにご助言をいただきました。またお客様とのペッパーの接近した対応が求められるため、チラシ配りのモーションなど安全性には最大限の配慮をしました。
課題についてですが、今回移動はしていませんが動き出す直前にアナウンスや間接照明を点滅させるなど、動きの事前予告となり注目度向上及び注意喚起並びに危害予防にもつながります。これは入れた方が良いと思います。あとはチラシの判定に使う光センサーの反応範囲(現行は0から40ミリ)を広いレンジに対応できるものに変更することにより、別の位置に設置すればもっとスッキリしたなと思いました。
「人とロボットの共生」とは?
Pepperを複数台、同期させることもひと苦労ですが、見事な工夫と技術力で低コストを実現しているのが素晴らしいと思いました。
筆者が見ていて特に印象的だったのは、実験中だったのでPepperがチラシを落とすこともあったのですが、子供たちが落としたチラシを拾ってPepperのホルダに戻してくれたり、Pepperに渡そうとしてくれようとしていたことでした。
生まれた時からロボットが身近にある「ロボットネイティブ」な子供たちはゼロ目線でロボットと接しているので、大人のようにロボットに対して余計な幻想を抱かずに本当にロボットと共生できそうだと感じました。
またチラシ配りなどのコミュニケーションを通じて日常にロボットが当たり前にいる社会の実現をめざす神奈川県の取り組み(ロボット共生社会推進事業)が、全国に広がることで「人とロボットの共生」体験が増えるきっかけになればと思います。
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高橋一行Forex Robotics株式会社 代表取締役。AI、機械学習、ロボット、IoTなどのシステム開発を行いながら、コミュニティ活動やLTにも精力的に活動。 参加コミュニティ: 「ソフトバンクロボティクス公認コミュニティーリーダー」「 Creator's NIGHT eXtreme」 2020年のロボット業界を考える飲み会 共同主催 他