今回のテーマは今、話題のキーワード「IoT」について、F1レース、IBM Watson、そしてPepperを例に解説します。このコラムではまだIoTについて詳しく解説をしていないので、ちょっと変わった面白ネタで、神崎流にIoTの本質を探ります。IBM Watsonに近い話とPepperももちろん登場しますよ。
さて「IoT」・・・なんだかトホホ顔のアスキー絵文字のようですがそうではありません。(ToT)はトホホ顔の絵文字、「IoT」はInternet of Thingsの略です。日本語では「モノのインターネット」と直訳していますが、名前を聞いてもなんのことやらチンプンカンプンですね。それ、つまりはどういうこと?
IoTでこれからなにが起こるの?
IoTでF1「マクラーレンホンダ」と「IBM」が強力タッグ
Internet of Thingsとはなにか。
すごく簡単にひと言で解説すると、”インターネットにいろいろな機器を繋いで情報の吸い上げや相互やりとりをすると、自動化で効率的な世界がやってくるぞ”というものです。
では、それって具体的にはどういうことなのでしょうか。今回は大きく分けて2つの事例を解説します。ひとつめは舞台はF1レース、IoTとコグニティブの世界です。
IoTのキーポイントは”センサー”です。あらゆるものにセンサーをつけてインターネットに繋ぎ、センサーが取得した計測データをコンピュータ(クラウド)に送る、そのデータをクラウドでモニタリングする、モニタリングすれば現場に人がいなくても状況が把握できるし、異常事態を検知したり予測もできる、もしかしたら人間が気付かなかった新たな発見もできる、というわけなのです。
そこで具体例…。
2016年2月23日、IBMは「本田技術研究所がレーシング・データ解析システムにIBMのIoT技術を採用」というタイトルのプレスリリースを発表しました。つまりF1レースのマクラーレン・ホンダがIBMの「IoT for Automotive」を採用し、レース中などのレーシング・データの解析を行うという発表です。
さすが先進技術のF1です。もの凄いことになっています。だって、世界中のサーキットで行われているF1レースの現地から、レーシングカーのリアルタイムの状況を、ホンダの開発本拠地である栃木県とマクラーレンがある英国に送信してそこでモニタリング&分析、結果を即時ピットに返してチーム内で共有しようと言うのですから。
ひと昔前、マシンの情報はドライバーが運転して得たフィーリングをメカニックに口頭で伝達していました。例えば「第一コーナーからS字にかけて小刻みに跳ねるのでアクセルが全開に踏み込めない」と言った問題はドライバーが身体で感じ、メカニックにそれを伝えることでレースカーのセッティングに反映されていたのです。
もちろん昔からテレメトリーシステムは導入されていて、走行中のエンジンや燃料等の一部の情報はピットに送られていました。
テレメトリーシステムとはレースカーから送られてくる計測データをピットでモニタリングする遠隔測定システムのことです。現代のF1ではレースカーの中に大量のセンサーが搭載されていて、エンジンの回転数、水温、油圧、タイアの温度や内圧(空気圧)、ブレーキの温度や磨耗、燃料消費、どこでどのようにクルマがジャンプして、どこでトラクション(タイヤが路面を蹴る力)が抜けるのかなどをテレメントリーシステムに送っています。車載センサーから送られてくるデータの種類はなんと約160種類にものぼります。
IoTの鍵を握るセンサーとビッグデータ解析
これがIoTのひとつのカタチです。できることならあらゆる部品にセンサーを付けて計測データを取りたい…0.01秒でも速く走るための情報をとりたい、故障の兆候を見逃さずトラブルを事前に予測したい、燃料予測、最適なピットインのタイミング、知りたい情報はヤマのようにあり、ピットクルーやマネージャーは秒刻みに決断を迫られます…
センサーが計測するデータは1レースで約5GBにもなるビッグデータです。これだけの計測データは現場のピットの人では十分な解析ができるとは言えません。そこで今回の発表、IoT for Automotiveを活用したレーシングデータ解析システムを基盤として導入し、エンジンに関する情報を大規模な解析システムが解析してその結果を瞬時にチームのピットに返すと言うわけです。その解析に、IBM Watsonファミリーとは別ですが、強力なIBM解析技術のひとつ「IBM Cognosファミリー」である「IBM Cognos Business Intelligence」(IBM Cognos Analytics)も利用されています。
サーキットから栃木県の研究所にデータが送られるまでわずか3秒以内。10秒もかかっていたら予測の兆候がわかってもエンジンは壊れてしまうかもしれないというわけです。
先進技術のF1の世界でも、IoTとコグニティブが鍵を握るとは、なんとも面白い話しではないでしょうか。F1ほどシビアではないにしても、一般家庭や社会にあるいろいろなものをインターネットに繋ぎ、センサーからの計測データを蓄積・解析することによって世の中を自動化しよう、効率化しよう、便利にしようという方向にすすめている…これがIoTの一面です。
では、次にPepperを例に、IoTの別一面を説明します。
▽ IBMのプレスリリース
本田技術研究所がレーシング・データ解析システムにIBMのIoT技術を採用
Pepperと1600万色対応のスマート照明
「IoTを活用したいが、実際にIoTで何ができるのかが漠然としている」という疑問を解決するためのイベント「IoTの「T」が見れるでShow!」がニフティ主催で2016年1月26日に西新宿で開催されました。
出展者としては、沖電気工業、オムロン、リコー、ソフトバンクロボティクス等の企業が参加し、ブース展示とミニセミナーを行いました。ソフトバンクロボティクスのブースにはPepperが登場していたため、たくさんの来場者が足を止めて、PepperとIoT連携に注目していました。
スタッフがPepperに「電気つけて!」と言うと、Pepperが「電気をつけますか」と確認した後、照明がともりました。続けて「電気、青」と言うと、照明の色がオレンジから青に変わり、「電気、消して」と言うと照明が消えました。
これは、ユーザの命令に呼応してPepperがスマート照明「ヒュー」(Philips hue)のオン/オフや照明の色の変更(調光)を行うデモ。IoT連携のひと幕です。
ヒューは1600万色を超える色彩表現できる照明をうたっている製品です。Wi-Fiを経由してiPhoneやiPad、アップルウォッチなどから照明のオン/オフや調光ができます。Wi-Fiで接続するのはヒューのブリッジと呼ばれる、円形の機器で電球の親機のような役割をします。ブリッジは各hue電球(LED照明)とZigBee(ジクビー)という規格で通信して制御します。ひとつのブリッジには最大50個のhue電球を接続することができ、電球同士でも通信できます。
このLED照明、アップルストアが限定で国内販売していた点も変わっています。アップルストアの商品説明によれば、iPhoneやiPadに入っている写真から色を選択してhueの照明光で再現できるとのこと(下画像)。さらに、照明が人体に与える影響について検証を重ねて開発されたライトレシピという4つの光の色がプリセットされ、くつろぐ、集中する、本を読む、やる気を出すといった、シーンを演出することができるとのことです。
現在はアマゾン等、アップルストア以外からも購入できます。
Pepperと見守りカメラの連携
もうひとつは「ネタトモ・ウェルカム」(Netatmo welcome)という製品との連携です。ネタトモ・ウェルカムは最近セキュリティグッズで話題になっているインターネットカメラの一種です。留守番カメラと言った方がピンと来るかもしれません。顔認識システムも搭載しています。
このカメラの前を人が通ったり、カメラに顔を写すと検知してスマートフォン等に通知する機能があります。玄関に設置したとすると、写った人が家族の場合は名前で帰宅を知らせ、見知らぬ人の場合は写真や動画を撮って通知する機能もあります。
デモではPepperが通知先になっていて、カメラの前に人が現れるとスナップショット画像を撮って、その画像と共にPepperに通知します。Pepperは周囲の人に「誰か来たみたいですよぉ〜ぉ♪」と喋り、カメラが写した写真をタブレットに表示しつつ来客を知らせるというものです。
なぜ、Pepperでこのようなデモが行われていたかというと、この照明機器とカメラ製品のいずれも、インターネットで制御できる製品として市販されているIoT対応製品だからです。それぞれメーカーがソフトウェア(API)を一般公開していて、開発者が端末や根幹の場合はロボットからコントロールできるように比較的簡単に開発することができようになっています。
今回は、IoTのイベントということで、Pepperがインターネットを通じて電気やカメラを制御する連携のデモを急遽作って展示にのぞみました。APIが公開されていれば、さまざまな機器とPepperなどとの連携が比較的簡単にはかれるようになります。これもIoTが注目されている理由のひとつだと言えるでしょう。
Pepperは開発環境が充実
ちなみにブースで説明を担当しているスタッフは、Pepper開発の聖地と言われている「アルデバラン・アトリエ秋葉原 with SoftBank」(以下、アトリエ秋葉原と表記)でお馴染みのふたり。いわば開発者が集まる最前線で活躍してきた重要なメンバーが、IoT用にデモを短期間で開発し、ブースの説明員をこなしていました。今回のデモ、スマート照明と見守りカメラとの連携はPepper標準の開発ツール「コレグラフ」(Choregraphe)で作成されています。
Pepperはコミュニケーション・ロボットとして注目されています。多くの開発者がこぞってPepperのアプリ開発に参入している理由のひとつが、開発ツールやコミュニティが充実しているためです。代表的なツールがコレグラフと呼ばれるソフトウェアで、Windows用とMac用が用意され、ドラッグ&ドロップを中心にした簡単な操作でPepperの多くの動作を制御することができます。キッズ向けのアプリ開発イベントまであるくらい、導入しやすいツールになっています。上達すればIoTの連携アプリも比較的短時間で開発することができます。
コレグラフを独学で学びたい場合は書籍「Pepperプログラミング 基本動作からアプリの企画・演出まで」(SBクリエイティブ)が発売されています。
実際にPepperに触りながら学習したい場合はアトリエ秋葉原のイベントに参加するのがお勧めです。まずは開発の基本を教えてもらえる「ワークショップ」に参加し、基本が理解できたらPepperを時間内に自由に使うことができる「タッチ&トライ」を予約すると良いでしょう。公式ホームページに詳しい情報や予約方法が載っています。
また、首都圏以外に住んでいる人向けには「アトリエサテライト」があります。ソフトバンクロボティクスが運営しているわけではありませんが、同社が地域の活性化、地域間の交流を視野にPepperのロボアプリ開発を支援する認定サテライト施設です。主にPepperオーナーやPepper導入企業が運営していて、独自に勉強会・講習会、イベントなどを開催しています。場所やイベント日時等は「公認サテライト一覧」ホームページで確認できます。
また、公認サテライトになりたい人や企業は「アトリエサテライト」ページから申請することができます。
家電のIoTとスマートハウス
なお、様々な家電やホーム設備を情報端末等に接続してコントロールする構想を昔は「ホームオートメーション」、最近は「スマートハウス」と呼んでいます。
株式会社リノベるはスマートハウスショールーム「Connectly Lab」を渋谷にオープンしているほか、昨年10月にはアトリエ秋葉原で「スマートハウス連携アプリを作ろう!」というPepperと連携した開発者向けイベントも開催し、積極的にロボットとIoTの連携活動も行っています。
それらの詳しい様子はロボスタ・ドット・インフォのニュースを併せてご覧ください。(下記に参考記事)
次回は再びIBM Watsonの情報をお届けします。
今回もまた長文になってしまいました…次回からは簡潔で短い記事を目指しますので、これからもご愛読よろしくお願いいたします。次回もぜひお楽しみに。
【関連記事】
IoTデバイス満載の最先端スマートハウスショールーム「リノベる。Connectly Lab.」行ってきた!(2015/09/18)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。