【神崎洋治のロボットの衝撃vol.21】SBR冨澤社長に聞く、Pepperに「Android SDK」を導入した意味とは

2016年5月19日、ソフトバンクロボティクスは「Pepper」をAndroidに対応させることを発表しました。具体的には2016年7月よりAndroidに対応したPepper開発者向けモデルを先行販売し、それに先だって5月19日よりPepperで動作するAndroidアブリの開発キット「Pepper SDK for Android Studio」ベータ版ソフトウェアの提供を開始しました。


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Pepperで動作するAndroidアプリ開発キット「Pepper SDK for Android Studio」をAndroidアプリ開発者向けに用意。発表会当日からダウンロード提供を開始した

PepperがAndroid OSに変わるということではなく、PepperのOSはそのままでAndroidアプリがPepper上で動作するようになる、Androidの開発技術でPepper向けアプリが作れるようになります。

このことで開発者やユーザにとってどのようなメリットが生まれるのでしょうか。また、ソフトバンクの狙いはなんでしょうか。

ロボスタ編集部は、ソフトバンクロボティクスの代表取締役社長 冨澤文秀氏にインタビューする機会を得ました。

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ソフトバンクロボティクス株式会社 代表取締役社長 冨澤文秀氏


開発者の数が100倍増えることを見込む

ソフトバンクロボティクスはPepperをAndroid対応にすることで、開発者の数を100倍以上に増やしたいと考えています。Android用スマートフォン/タブレットの開発者は、Pepper用アプリの開発が容易になり、新規参入がしやすくなります。

編集部

Android対応によって、開発者にはどのような変化があるのでしょうか。


冨澤(敬称略)

Androidは社会に大きな影響を与えるほどのプラットフォームに成長しています。既にAndroid用アプリを開発する人は世界中に膨大な数がいます。Pepper開発者もたくさんいますがその100倍にのぼると見ています。また、Android開発者たちが培ってきた技術をこれからはPepper用のアプリに活かすことができます。また、可能性としては、例えば音声認識などに優れた技術がAndroid用にあるとすれば、それをPepperにも利用可能になるでしょう。


編集部

仮に、今のPepperの機能では、音声認識や画像認識の性能が物足りないと開発者やユーザが感じているとします。Android用に、今より高機能なツールが存在している場合、Pepperにそれらを活用することで、より高機能で便利になる可能性がある、という意味ですね。


冨澤

その通りです。ソリューションの選択肢が拡がると捉えています。
※ソリューション=解決策:この場合は機能を実現するための技術やツールの選択肢のこと



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Android連携アプリの例として発表した「テレプレゼンス for Pepper」。VRゴーグルを除くとPepperの視界で景色を見ることができ、ゴーグルを動かすとPepperの顔の向きも連動して動く。同日にソフトバンクグループのアスラテックが発表した「VRcon for Pepper」を使い、Androidで動作させたもの(デモを行っているのはソフトバンクロボティクス プロダクト本部 本部長 蓮実一隆氏)

編集部

開発者のビジネスとしてはどのような変化が起こると想定していますか。


冨澤

開発者がPepper用アプリをどう販売していくか、ビジネスモデルはまだ企画段階なので決まっていません。
ただ、Androidのスマホやタブレット用アプリを作っている開発者にとって、ロボットアプリ開発にもチャレンジできるチャンスであり、そのことに可能性を見い出してくれると思っています。Androidの自由な開発環境に対応しているロボットはまだほとんどありません。



Pepper用のAndroidアプリはGoogle PLAYからダウンロードできるようになる見込みですが、詳細やビジネスモデルは現時点では未定とのことです。

ロボットに参入したいAndroid開発者にとっては朗報ですが、これまでPepper用アプリを開発してきた技術者の思いは複雑です。Android環境でも開発ができるようになることは歓迎するとともに、たくさんの競合が参入してくる可能性があるからです。



Pepper対応アプリが一気に増える可能性も

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編集部

一般消費者にとってはどうでしょうか。Pepperは家族の一員になるロボットとして誕生しましたが、Android対応によってどのような変化が期待できるのでしょうか。


冨澤

現在、一般向け(家庭向け)Pepper用のロボアプリは200〜300あります。グローバルな規模で見れば、まだまだ狭いところでやっていると感じています。世界中のAndroid開発者がPepper向けアプリの開発に参入すれば、アプリの数が今より多くなるとともに、より価値の高いアプリにめぐり会うチャンスも増えると思っています。


編集部

Pepperはロボット。スマホでもないし、タブレットでもない…今までPepperがとってきたこのスタンスはコミュニケーションロボットを普及させる上ではとても大切だと思っています。しかし、スマートフォンやタブレット用アプリをGoogle PLAYストアからPepperにダウンロードして、Pepperをタブレットとして使えるようになるというのは、コミュニケーションロボットの存在意義に逆行しているのではないでしょうか


冨澤

それは違います。スマートフォンやタブレット用のアプリをそのままPepperにダウンロードして使ってもらうということではありません。ロボット向けのアプリがAndroidの開発環境で作れるようになれば開発環境が拡がるし、カレンダーやスケジュールなどスマートフォンやタブレットで利用している機能との連携も可能になると考えています。

Pepperにとってタブレット画面を持っていることはとても重要です。特に法人向けPepperでは、店頭や街頭など会話がしずらい環境もあり、ユーザと情報をやりとりしたり、コミュニケーションをとるためにタブレットとの連携は必要だと感じています。リッチな表現にもタブレットは欠かせません。




連携するプラットフォームを拡大する狙い

編集部

ソフトバンクにとって、Android対応にはどのような狙いがあるのでしょうか。


冨澤

Pepperについては、IBMやMicrosoftとの提携を既に発表していますが、戦略的にオープンなプラットフォームを提供するという意味で、Googleもその延長にあり、Android対応することでまた大きな市場を追加して拡張できたと考えています。

※ IBMとの提携:IBM Watsonとの連携
※ Microsoftとの提携:Microsoft Azureとの連携


編集部

それはAndroid OSがこれからのロボットOSとして無視できない存在になってきたということでしょうか?


冨澤

Googleは常に無視できません。プラットフォームをPepper向けのクローズにするか、いろいろなOSやシステムと連携させたオープンにするか、深いところでずっと議論してきました。

Pepperは他に競合がなく、Pepperを閉じたプラットフォームで確立するという選択肢もありました。しかし、海外でも知られるようになり、私達はよりオープンな環境を選ぶことにしました。その方が当社だけでなく、開発者やユーザの方にもメリットは大きいと考えているからです。



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蓮見氏の手のひらや指のカタチに従って、Pepperが強制的にポーズをとらされるというデモアプリ「ハンドイリュージョン」。Google TensorFlowの機械学習ライブラリを使い、16,000以上の手の画像から手や指の違いを学んだもの。Android環境なら開発がしやすい

グローバルなオープン化に舵を切ったPepper

編集部

今回のAndroid対応は、Pepperの世界進出も視野に入れたものだと思いますが、具体的にはいつ頃から世界展開を予定していますか


冨澤

それほど先延ばしせずにやりたいという気持ちはありますが、現時点では未定なので時期は明言できません。

※米国のGoogle I/O関連のニュースサイトでは今年後半に米国でPepperがビジネス向け/家庭向けに発売されると報じている。


編集部

Android対応したからと言って、今までのPepperアプリ開発者がすぐにAndroidに移行することは簡単ではありません。開発者向けのイベント等を行って、Androidでの開発を喚起していく必要があるのではないでしょうか?


冨澤

その通りです。Pepper用アプリの開発に携わっている開発者の皆さんに対しては慎重に対応させて頂きたいと思っています。有識者の方々と意見交換したり、各地で開発者イベントを行いながら、少しずつでも理解をして頂くことが大切です。



Pepperでは発表当時から開発者イベントやアトリエなどを通じて、開発者の育成やフォローしてきました。Android開発者参入に期待しつつも従来のPepper開発者に対する気遣いが感じられました。

編集部

今夏、開催予定のソフトバンクワールドやPepperワールドでの発表ではなく、このタイミングでこれを発表した理由はなんでしょうか?


冨澤

Googleの開発者イベント「Google I/O 2016」で、このプロジェクトが発表されることになったので、当社の発表も日にちをあわせて行ないました。



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編集部

ここまで、Pepperのロボアプリは審査の基準も厳しく、Pepperのキャラクターも一貫性を持って守られてきました。それはアップルのAppストアの運営スタンスに似ています。一方、グーグルはGoogle PLAYストアのアプリ審査の基準もゆるく、もっと自由でオープンですが、その裏返しでセキュリティ面等に不安があります。Android開発者を取り込むことで、Pepperのアプリ管理の方針がグーグル型にガラッと切り換わるように感じます。


冨澤

そこは今まさに社内でも議論しているところです。当初からPepperのロボアプリの管理や供給をアップル型でいくかグーグル型でいくかの議論はずっとしてきました。それよりもこれまではとにかくきちんと動作して安心なものを用意しようと必死で、その結果アップル型のようにやってきました。ようやくそれが落ち着いてきましたので議論する時期だと思います。



いわゆるグローズドなアップル型とオープンなグーグル型には双方にメリットがあります。これまでは安全面を重視してクローズドな路線でしたが、今後は市場拡大を見据えてオープンに移行していくとみられます。ちなみにソフトバンクグループ代表 孫正義氏や冨澤氏はオープン派のようです。

編集部

今まではPepperのキャラクターについても認定制度を設ける案などがあって、厳しく管理されてきました。もし、Google PLAYでPepper用ロボアプリを供給するようになると仮定すると、Pepperの声や動きがまったく別のものに変えられたアプリが登場する可能性もあり、御社ではその管理ができなくなるのではないでしょうか。


冨澤

当社がキャラクター性をどこまで管理できるのかは議論が必要ですが、Google PLAYで提供するから当社では全くそれを管理できなくなるということでもないだろうと思っています。

いずれにしろ今はオープンの環境を選び、大きな市場のブラットフォームとなることを優先すると決めました。その上で、これまでのようなキャラクター性を確保できるのかどうか、我々がどう表現していくか、それはこれから議論していきます。



(聞き手:神崎洋治・望月亮輔)

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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