HTML5 Conference 2016が、9月3日に東京電機大学 千住キャンパスで開催され、基調講演のふたりめとして、Incrementsの及川 卓也氏が登壇した。(ひとりめの基調講演は慶應大学の中村教授「ビッグデータもIoTもウェブ基盤の上に成り立っている – HTML5カンファレンスで慶應大の中村教授が基調講演」)
及川氏と言えば、マイクロソフトでWindowsやInternet Explorerの開発に携わり、その後、Googleでプロダクトマージャーとエンジニアリングマネージャを務め、日本語版クロームの開発マネージャとしても知られる。Google退社後は、プログラマのための技術情報共有サービス「Qiita」等を提供するIncrements株式会社に、プロダクトマネージャとして従事している。NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」に2012年に出演したことで一躍有名になった。
その及川氏がHTML5 Conferenceの基調講演で何を語るのかが注目された。
講演で及川氏は、ウェブを3つに分けて説明した。
アプリケーションとしてのウェブ、メディアとしてのウェブ、プラットフォーム(基盤技術:インフラ)としてのウェブだ。
HTML5は2008年頃から言ってきている「アプリケーションとしてのウェブ」であると言う。
情報の公開手段としてのウェブだけではなく、デスクトップ用のネイティブ・アプリケーションに追いつけ追い抜けで開発を続け、現在はモバイルアプリケーション用アプリと競いながらウェブで実現する技術を磨いてきた。
例えばGoogleは以前から、VRやサウンド・サラウンディング(音響)などの技術をウェブの世界でも利用できるように考えていたと言う。
及川氏は「クロームアプリケーションがなくなるというニュースが最近もあったが、それは必ずしも失敗だというわけでなく、モバイルを含めてもっと包括的なものとして考えていくのだと捉えることもできる。
しかし、もしデスクトップ用にC++などの言語で開発されてきたアプリケーションがブラウザ上で動作する世界がきたと仮定すると、果たしてウェブとはなんだろうかと考えることがあるし、一方でウェブは汎用のアプリケーション開発技術となっていく、という認識を持たなくてはならない」としている。
続いて「メディアとしてのウェブ」ということで、ウェブとモバイルアプリを比較して説明した。
「今や主流のデバイスはデスクトップからスマートフォンに移っている。電車の中の様子を見ても、たくさんの人がスマートフォンを見て隙間時間を過ごしている。そのとき何を見ているかを考えると「ニュースキュレーションアプリ」が人気アプリのひとつとしてあげられる。このアプリを見て、現在のウェブと比較すると、我々が何をやってきて、何をサボッて来たかが解るのではないか」
「モバイル環境でブラウザを開き、ニュースを見ると、明らかにクリックを誘導するように仕掛けていると感じる広告がある。次のページに行こうとしたときに広告ページへのジャンプが邪魔をしていたり。悪意の有無の違いはあるにしても、これはウェブのUXがいかに悪いかということを示しているのではないか。ニュースキュレーション系アプリは見やすいし、操作もしやすく、誘導する広告もない…ニュースアプリの台頭こそ、ウェブのUXにおけるアンチテーゼではないだろうか」と及川氏。
及川氏は、この課題に対して新しいウェブとしてGoogleが主導して提唱しているモバイルページ高速化プロジェクトが「AMP」(Accelerated Mobile Pages)に繋がるのだろう、ということで、ニュースサイトなどは今後きAMPに対応する研究が必要ではないかと提案する。
及川氏は、正しくセマンティックがされているかどうかがこれからもポイントだと言う。セマンテックとは情報を記述する際に何を意味するものなのかを表すメタデータを付与することによって、高度な情報検索や活用を実現するしくみや技術。ウェブは人間が見るものであると同時に、検索エンジンや人工知能など、コンピュータが情報を収集してページに書かれていることを解析するのを考えれば、その重要度の大きさは理解できる。
最後に「基盤技術として使うプラットフォームとしてのウェブ」は、安全・安心・快適に利用されるための基礎技術の大切さをうったえた。キーワードはHTTP/2、QUIC、SSL/TLSだと言う。
Google I/Oでもテーマになっていたのは「もう一度ウェブを見直そう」という動きであり、ウェブがこれからも重要であり続けるために、一旦立ち戻って「ウェブに再投資することを考えてみよう」、更には「ウェブを再発明していこう」という考えを紹介してしめくくった。
HTML5 Conference 2016
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