身長4m「巨大人型重機」が人と機械の新たな未来を開く 人機一体 金岡克弥氏が試作コンセプトを公開
試作に焦点を絞った専門展「第8回試作市場2017」「微細・精密加工技術展2017」が 4月27-28日の日程で大田区産業プラザ PiOにておこなわれた。
4月27日には特別講演として、株式会社人機一体(http://www.jinki.jp) 代表取締役社長で、立命館大学 総合科学技術研究機構 ロボティクス研究センター(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/robotics/rrc_jp/) 客員教授の金岡克弥氏が「登場間近! 強力なパワーと巧緻なスキルを両立する巨大人型重機 自民党ガンダムプロにも影響を与えるロボット技術と試作機の開発」と題して登壇。金岡氏は、現在製作中の4m級の人型重機試作のコンセプトを公開した。
金岡克弥氏は、「ロボットが出す力を人間が感じながら操作する」ことにこだわっている研究者である。金岡氏が開発してきた「パワーエフェクタ」は人間の力を50倍くらいに増幅する。単に増幅するのではなく自分が出しているという感覚を持ちながら力を出すことができる点がポイントだ。だからスチール缶をタテに潰すこともできるし、卵をそっと持つこともできる。微妙な力加減を人間が操作できるのだ。筆者も十年近く前に体験させてもらったことがある。
金岡氏は「単純に大きな力を出すだけならロボットである必要はないが、人間の熟練作業の拡張にはロボット技術がいる」と述べた。たとえば職人技は人体の力学的な条件に制約されているが、それを解き放ってやれば新たな可能性が広がる。
「生身でできることであれば生身ですればいい。生身でできていることを楽にしようというのではない。数トンの荷物を組み合わせて作業するであるとか、これまでできなかったことをできるようにしたい」というのが金岡氏の考えだ。
コアは力学ベースのロボット制御工学技術
2007年にマンマシンシナジーエフェクタズ株式会社を作った金岡氏は、その後、2015年に株式会社人機一体を設立。同社は「巨大人型重機を作る」ことをミッションとした会社だ。そんなものがビジネスになるのかと思うのが普通だが、金岡氏は「小さな会社がいかにビジネスとして成功するのかという話はしない」と断言。「何をもってこういうことをやっているか、実現したい世界は何か、我々にそのために何ができるか」について語る、と話を続けた。
自らを「変人」だとする金岡氏は「技術が全て」だが「技術はあくまで手段。別の目的がある」と述べた。別の目的とは「志」であり、「その志は本物か」どうかが、「0から1を作るベンチャーにとっては、これがほぼ全て」であり、イグジットストーリーや事業計画はあとからついてくるものだとした。
金岡氏によれば、ベーシックなモチベーションは「力が欲しい。強くなりたい」だという。「個人レベルでも人類レベルでも我々は強くありたいと考えてこの社会を作ってきた。実現している部分もあるが、してない部分もある。それを思い知らされたのが福島第一原子力発電所の事故だ」と金岡氏は述べた。「専門家としてロボット技術の限界はわかっていた」が、「いざこういう局面になって現実を目の前に突きつけられたのは衝撃的であり、屈辱的だった」という。
さらに金岡氏は、既存の油圧重機や、19世紀のウィリアム・オーティスの蒸気ショベルの絵を示し、「ここから何も変わっていない」「いつまでこれに頼り続けるのか」と続けた。
現在進められている建設ロボットの高度化は、基本的に自動化・自律化だ。だがメカの部分は本質的には変わってない。「メカとしての機能を高めてこそロボット化なのであって、旧態依然とした機構を高度なAIが動かしても、それはロボット化ではない」と続け、「ここにビジネスチャンスがある」と語った。
金岡氏が進めているのは「力学ベースのロボット制御工学技術」だ。この観点でのロボット工学の捉え方が世の中には普及していないという。金岡氏は、産業用ロボットのなかにもロボット技術は実際にはほとんど使われておらず、研究してきたこと、学んできたことが何も役立っていないことに愕然としたという。
だが逆にいうと「未利用の技術」が膨大に蓄積されているわけだ。技術を使えるようにするための「蟻の一穴」を与えれば、世の中にどっと技術が溢れ出す。そうするとロボットのイメージが変わる。それが金岡氏の考えだ。
「ステージで踊ったり、可愛い外見で喋っているものはロボットではなくオモチャ。ロボット工学はそんなもののためにあるのではない。ロボット工学をちゃんと応用したら、こんなすごいことができるんだということを知らしめたい。そのために強力な機械を人が操る技術を磨いてきた」という。
それが、大きな力を出せるロボットを、人とインターフェースできる技術だ。直感的に人が機械を動かせる。それが技術のポイントだという。力学的に、本当に人と機械が機械的に繋がっているようなマスタースレイブは、金岡氏たちのグループだけが実現している技術だという。
力を操る巨大人型重機
これまで10年間開発を続けて来た経緯によって、これはいける」と思ったと金岡氏は語った。だが基本的な技術と商品のあいだには大きなギャップがある。そのあいだを繋げることが必要だと述べて、現在製作中の人型重機のコンセプト画像を示した。身長4mで体重2トンの人型重機だ。
アクチュエーターはモーター、部材はカーボンファイバーで、電源は外部供給の予定。マスタースレイブで人が外部からコントロールする。
「儲かるかどうかは知らない」が、「儲けるモデルを作る」。「力を操る技術は根源的欲求であり、儲けるモデルは必ずできるはず。果たしてそのニーズは根源的か。そこに知恵をしぼる価値がある。薄っぺらい市場調査に基づいたニーズなら、考えるだけ無駄」と語った。
ただし、本質は人型重機をつくることではない。マスタースレイブをコアとしており、パワーエフェクタも大きな力を出すのではなく、小さい力も出せることが重要なのだ。「人と機械をつなぐインターフェース技術がコア。こういうロボットをつくる技術には多様なものがある。本当にやりたいのは、あくまで力学的インターフェースで人がロボットを動かすこと。そこを追求して行くことに価値がある。力学的なインターフェースで、非常に繊細に動く複雑なロボットを操作する。人が自分の生身でできる以上の高度なスキルをロボットで発揮する。それが目的です」と再び強調した。
「人の新たな外部身体」を作りたい
作りたいのは「人の外部身体」としての新たなプラットフォームなのだという。人に生身にはなかった新たな機能を持った外部身体をインストールする。そのための土台を作ることが今回発表された人型重機なのだという。
パソコンが普及したのはパーソナルになったからだ。ロボットも同じであり、巨大ロボットを使いたいと思ってる人はそんなにいないが、今回のプラットフォームを「フラッグシップ」として作ることで、そこから先の展開を期待しているという。
「我々はプラットフォームを作る。コアはインターフェースなんだから、その先がどんなものであってもいい。インターフェースする技術によって、人の力学的機能を増幅・拡張するという機能を万人に提供する。それが我々のビジネス」だと語った。
「大企業は、過去の産業用ロボットの遺産から離れられない。これが次です」と述べて、「人は無力で弱い。力が欲しい。だから力を与える技術は理にかなっている。このロボットが人の新たな外部身体になること。人の意識がレバーやリンクを通して手の感覚が消えて、直接ロボットの腕を動かしている感覚になる」と語った。
道具を自分の身体の延長として感じるように、身体の延長として使いやすいロボット技術を適切なインターフェースで提供してやれば、もっと手軽に使える高度なロボットができるはずだという。そして「そこにいろんな人がいろんな機能をインストールしていく。そういう未来をデザインしようとしている」のだと述べた。
また、自分の身体を強化するのは難しいが、高度な身体を外部身体として作り変えることができるのであれば、まったく別のロボットを自分の身体として動かせるわけなので、身体の定量的な差はどうでもよくなる、それによって人の能力をロボット工学を使ってどこまでも拡張していくことができるとし、「人の能力を無限に拡張する最初のプラットフォーム」を作りたいと語った。身体が強ければ原発の中にも入れるわけで、「膨大な産業市場がある」といい、「何の役に立つのか? それはナンセンスな質問」と切り捨てた。
自動車、電話、パソコン、インターネットなど、世の中に広く普及した機械は全て人間の能力を拡張する機械であり、だから市場が拡大したのだという。そこにつながるものであれば、普及するはずだというのが金岡氏の考えだ。ロボットの応用としては力学的な応用が本流であり、「身体能力の拡張を市場にしないほうがおかしい」と断言した。
重要なことは「志」
さらに金岡氏は「何かが成就するかどうかは志を立てた時点で決まっている。人の幸せを追求しているのか。個人的な私利私欲だけで動いているのか。みんなの幸福を追求するビジネスであれば、たとえ途中困難であっても助けてくれる人が出てくるはず。研究者としての自分がここまで開発を続けてこれたのは、やろうとしてきたことが正しいことだったから。正しさを証明するためにみんなが力を貸してくれていると思っている」と述べて、「それが本物であれば、努力 能力、コスト、人生をかける価値がある。それでこそビジネス、それが経営することなんじゃないかと考えている」と語った。
最後に金岡氏は「できない理由を探すな。その方向は正しいのか。正しいと確信したら作れ。私は自分の技術の有用性を信じているので成功すると確信している。成功しないはずがない」と自らにプレッシャーをかけるように語った。
そして、会場にいた中小企業の人たちに向けて「何らかのかたちで興味を持ってもらえるならプロジェクトにかんでもらいたい。あらゆる技術が必要になる。あらゆる分野で市場を開拓して行くはずです。ぜひコンタクトをとって仲間になってください。お金はないけど楽しいと思います」と呼びかけて講演を締めくくった。
VRによる体験会も
講演後は、試作予定ロボットのCADデータをもとに作ったVRによる4mロボット体験会も行われた。そのデータを見ると、ロボットにはサブアームもつく予定ののようだ。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!