ZMP、歩道自動走行を目指す宅配ロボット「CarriRo Delivery」をデモ 「銀のさら」で宅配実証実験へ 対話機能も実装へ


株式会社ZMPは、2017年7月13日、歩道の自動走行を目指す宅配ロボット「CarriRo Delivery(キャリロデリバリー)」のデモを「第9回ZMPフォーラム」のなかで行なった。「銀のさら」を運営する株式会社ライドオン・エクスプレスと共同で、寿司の宅配実証実験を目指す。


専用のスマホアプリを使って寿司を注文

扉を開閉するのもスマホを使う想定。
会見での寿司宅配デモの様子

「キャリロデリバリー」はZMPが2014年から開発、2016年8月から販売中の台車型の物流支援ロボット「CarriRo(キャリロ)」の技術を活用して、宅配などを目指すロボット。


「CarriRo Delivery(キャリロデリバリー)」

台車部の上にスマホアプリを使って開閉できるロッカーなどをつけて、宅配や移動ショップを可能にすることが目標だ。


側面の扉からモノを入れる

本体重量は90kg。大きさは全長1330mm、幅750mm。高さは1090mm。最大積載荷重は100kg。

呼ばれて出発するところ

最大時速は6km/h。稼働時間は8時間。約8度までの坂を登れる。谷口氏は「トラックが通れない細い道も入ることができる」と語った。


正面と底面にレーザーレンジファインダーが見える

正面にはライトがついており、夜間は見回りをさせたいと考えているという。


正面には夜間・夕方用のライトも装備
バックして定位置に戻るところ


宅配ロボット構想

株式会社ZMP 代表取締役社長 谷口恒氏と同社の自動運転車「RoboCar」

株式会社ZMP 代表取締役社長の谷口恒氏は、物流支援ロボットを開発しはじめた経緯を紹介。2013年に近所の宅配業者の様子を見ていて、人手不足に対応するため、人のあとをついていく追従ロボットを開発したと語った。

ZMPの台車ロボット「CarriRo(キャリロ)」の使用例

谷口氏は東京藝術大学博士課程(長濱研究室)に在籍している。「CarriRo Delivery」のコンセプトは、そこで作ったものだという。

キャリロデリバリー・コンセプト動画

3ヶ月前にこのビデオを公開したところ多くの問い合わせがあったと語った。

課題は法規制。このようなロボットのカテゴリーは決まっていない。小型特殊自動車だと道路使用許可を得ないと走ることができない。シニアカー、歩行者扱いならば歩道を走ることができる。


海外ではピザ自動宅配の実験が始まっている

海外ではピザのデリバリーの実験が始まっている。谷口氏は「日本人は寿司でしょう」と会場に呼びかけた。

なお警察庁は2017年6月1日に遠隔操作で動く無人ロボットの運用ガイドラインを出している。これを宅配ロボットに適用して考えようとして、各方面と相談中とのことだ。「一時的なイベントではなく、シニアカー・歩行者扱いにして、早期に歩道を走らせたい」と強調した。


警察庁のガイドライン

5月末に行われた千葉市交通公園での自律走行性能確認テスト、歩道での段差や傾斜テストなどを経て、今日のプロトタイプ公開となったとのことだ。歩道でもなるべく振動がおきないように経路を設定して走行する。


千葉市交通公園での実験の様子

なお、「キャリロデリバリー」は小売業者向けだが、宅配事業者向けには「CarriRo Express(キャリロエクスプレス)」というブランドになっている。

宅配ロボットCarriRo Express(キャリロエクスプレス)コンセプト動画

なおキャリロエクスプレスの動画を運送会社の人に見せたところ、「トラックの上の空間が空いている。縦に二台積めないのか」というツッコミがあったそうだ。

フードデリバリー産業はすでに2兆円を超えている。谷口氏は、許容時間40分、人が通っている場所では平均時速3km程度で走行するとした場合、おおよそ2kmが最大配送エリアとなると概算した。


時速3kmで走行する場合は1-2kmくらいがエリアに


コミュニケーションできる宅配ロボット

また、以前発売していた音楽ロボット「miuro」のコンセプトを継承し、「AIを使ってコミュニケーションできる宅配ロボット」を目指すと述べた。


ZMPが以前販売していた音楽スピーカーロボット「miuro」

高齢者に対して挨拶したり、カメラを使った安否確認などを行うことも視野に入れる。



ITが一番変えるのは物流 食のかたちを変える「銀のさら」

株式会社ライドオン・エクスプレス 代表取締役社長 兼 CEO 江見朗氏

宅配寿司「銀のさら(https://www.ginsara.jp)」を運営する株式会社ライドオン・エクスプレス 代表取締役社長 兼 CEO 江見朗氏は、宅配寿司業界の市場規模560億円のうち、47%を「銀のさら」が持っていると紹介した。


ライドオン・エクスプレスの主要ブランド

寿司の市場は1.7兆円。そのうち3%程度が宅配寿司のマーケットということになる。原価率などの問題もあり、宅配寿司はピザに比べるとハードルが高いため、同社以外にはあまり残らなかったのだという。

同社が進めている、宅配機能を持たないレストランの宅配を代行する「fineDine」というもう一つのブランドでは、ITを積極的に取り入れており、「いま宅配フード市場は確実に広がっている」と語った。

そして「技術の革新、テクノロジーの進化は金融で止まってしまいがちだが、リアルで一番変えるのは物流。本当にITの恩恵が受けられるかどうかはラストワンマイルで決まる。そこをブレイクスルーできるのが自動運転であり宅配ロボット」と述べた。

ZMPと全力で協力して、ルールの壁を乗り越えて、「これまで一方通行だった食を双方向にしたい。食の形態を変えていきたい」と語った。

「2020年には海外から来る選手たちに、銀のさらの寿司を自動宅配ロボットで好みの寿司を提供したい」と述べた。世界的な展開も視野に入れる。


オリンピックのときには海外選手を自動宅配ロボットでもてなしたいという


ライドオン・エクスプレス「オンデマンドプラットフォーマー構想」

株式会社ライドオン・エクスプレス 取締役副社長 兼 CFO、株式会社エースタート 代表取締役 CEO 渡邊一正氏

株式会社ライドオン・エクスプレス 取締役副社長 兼 CFOで、ZMPにも出資しているベンチャー投資会社の株式会社エースタート 代表取締役 CEO 渡邊一正氏からは、具体的に宅配フード業界の課題と期待が述べられた。

フード宅配市場は急激に、加速度的に伸びており、今後も伸びることが予想されている。これまでは宅配に乗り出していなかった外食産業が進出し始めているからだ。いっぽう、日本のデリバリー比率は海外に比べると低い。日本国内の高齢化、小規模世帯増加などの社会背景もあって、潜在市場はまだまだ大きい。


フードデリバリー市場の概況

急拡大するフードデリバリーのなかで、渡邊氏があげた課題は4つ。事業主は配送リソース、人員不足に悩んでいる。配達員は配達件数が増えるに従って、事故率が増加する。特にフードデリバリーは食事時間に集中しがちで、事故率がベテランでも高まる。現在のビルは入館手続きが必要で、管理人の手間も増えている。ユーザーは商品受け取りのときの代金やりとりが面倒だったり事前決済では不安があったりするが、ロボットを使うことで、受け取るときに決済が可能になる。これらに宅配ロボットの適用、人との協業が期待される。


フードデリバリー業界の課題とロボットへの期待

ではなぜZMPと協業するのか。同社が単に寿司を届けるだけではなく、大きく変革することを考えているからだという。それがライドオン・エクスプレス社の「オンデマンドプラットフォーマー構想」だ。


ライドオン・エクスプレス社の「オンデマンドプラットフォーマー構想」

同社のリソースやデータを活用することで、オンデマンドにサービス、コンテンツ、商品を届けられるプラットフォームとし、それを他社に提供することを構想している。「ZMPはこの構想を実現するために大切なパートナーである」と語った。

実用化については法規制次第、コストメリットについては「量産できるかどうかにかかっている」というコメントに留まった。


寿司を囲んで握手する三者。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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