北海道、札幌駅の近くに「アトリエサテライト札幌駅北口(仮称)」(以下、アトリエ札幌と表記)が新しく開設されます。
運営するのは株式会社ダイス。ロボアプリの開発や、Pepperを接客業務に活用するためのサービス「ロボットマネージャー(ロボマネ)」の提供などを行っている企業です。これまで培ってきたシステム開発の経験や知見を活かして「北海道内でのPepperの活用や普及の後押しをしたい」と語ります。
ダイスの代表取締約社長の豊田氏は、Pepperに対してユニークなこだわりを持った開発をしています。そんな豊田氏に、Pepperの魅力、アトリエサテライトの運営やロボアプリ開発等について聞きました。
編集部
まずはダイスについて聞きたいと思います。御社の代表的なPepper用ロボアプリ・サービスは「ロボマネ」ですね。「Pepper一般販売モデル」用の接客アプリということで、家庭用のPepperに業務をさせるという変わったアプローチをとっています。
豊田(敬称略)
「ロボマネ」はPepper一般販売モデルに、オリジナルの動作をさせるためのアプリです。接客でもプレゼンでも、日本昔話でも、Pepperに何かをさせたいとき、お客様がプログラムを組む必要もなく、簡単な指定だけでPepperにあれやこれやをさせることを目指したロボアプリです。具体的には、全190種類のアニメーションを用意していますからその中から選択してやらせたり、好きなテキストを入力して喋らせたり等です。カレンダーと連動して期間設定や時間指定でキャンペーン内容を喋らせることもできます。接客したときはそのデータの集計や解析できる機能もあります。デジタルサイネージなど外部ディスプレイと連携した機能もあります。
編集部
その機能を「Pepper for Biz」ではなく「Pepper一般販売モデル」用に実現しているところが面白いですね
豊田
「Pepper for Biz」では接客や分析の機能が標準で用意されていますが、家庭用のPepperにはありません。でも、せっかくPepperがあるのなら、接客やプレゼンをやらせたいじゃないですか(笑)、そんな発想です。
※ソフトバンクロボティクスのPepperを活用し、株式会社ダイスが独自に実施しているものです。
「Pepper一般販売モデルの方がPepperらしい」
これは既によく知られていることですが、Pepperには大きく分けて2種類あります。ひとつが家庭用の「一般販売向けモデル」。身体の動きや声やおしゃべりが愛らしいPepperです。人がロボットを見て生命感を感じるのは、ロボットがひとりで何気ない仕草をしているとき。静かに呼吸をしているかのように肩を動かしたり、キョロキョロとあたりを見回したり、退屈だと窓の外を眺めるし、ため息もつく。独り言も言います。
しかし、これらの仕草や振る舞いはビジネスの現場では評価されません。ため息をついたり、窓の外を見ていたのでは真面目に仕事をしているようにはとうてい見えないからです。そのためビジネス向けの「Pepper for Biz」では、感情エンジンやこれらの生物的な仕草や振る舞い(オートノマス)はオフに設定して出荷されます。勤勉で効率的なPepperが求められるのです。
■ビジネスEXPO2016にて、豊田氏による「ロボマネ(ロボットマネージャー)」とPepperの紹介
豊田
Pepper for BizのPepperが無駄話をしなかったり、よそ見をしたりしないことは、ロボットをビジネスで活用するという視点ではそれは当然のことだと思います。でも一方で、それではPepperらしくないと感じる、私のような人間がいてもいいと思うんです。暇なときにジーっとして立っているだけなら別にPepperでなくてもいい、Pepperの魅力を多くの人に知ってもらいたいと思うからこそ、Pepperのキャラクター性を活かしたロボアプリを作って提供したいという思いですね。だから個人的には一般用Pepperを中心に開発を行っています。今後for Biz向けに開発をすることがあるかもしれませんが、それはPepperがアンドロイド対応版になってからでもいいかな(笑)くらいに思っています。
編集部
なるほど(笑)、よそ見しているくらいのPepperの方がむしろロボット感があってよいと。家族連れの方々にもPepperに触れあって欲しいですね
豊田
そうなんです。イベントでPepperを展示していると、家族連れの方が近寄ってきてくれるんですが、札幌ではまだまだ「初めて見た」という人が多いんです。更に「触ってもいいですか?」と言ってくれるんですね。「もちろん触ってもいいですよ、どうぞどうぞ」というと子供たちは大喜びでPepperと触れあっています。
子どもたちが集まってきてくれたときは、Pepperの本来の業務アプリは中断して、仕事そっちのけで、子どもとPepperに会話してもらったり、ゲームのアプリを起動して遊んでもらっています。仕事で決まったことしか話さないPepperより、そっちの方が面白いじゃないですか(笑)。もちろん安全面を考えれば「さわらないでください」と書いた張り紙がある現場もわかりますが、Pepperである理由って、人間のように自由なコミュニケーションがあって、触れあえてこそだと思うんです。
編集部
ロボマネの他にも、Pepperと連携したシステム開発を行っているとのことですがどのような事例があるか教えてください
豊田
ロボマネだけでもPepperを接客や集客ロボットとして活用できますが、ワインのデータベースを連携させたシステムを作ってワイン専門ショップに導入しました。お店の前にPepperを配置して集客して、来店客からのワインに関する質問に応えたり、ワインを検索して紹介するシステムを開発して導入した例ですね。
クライアントは「新規顧客がショップの前までは来てくれるけれど、なかなか店の中まで入ってきてくれない」という悩みを抱えていました。そこでまずはPepperがワインをネタに呼び込みをして集客します。さらに例えば、近寄ってきてくれた来店客がPepperに「フランス産、赤、辛口」といった指定をすると、該当するワインの情報をデータベースから検索してきてPepperが提案するしくみです。データベースはワインに詳しい人に協力してもらってデータを集積し、クラウド上に作成したシステムです。Pepperはそれにアクセスして条件に合ったワインを提案します。業務で使えるPepperもちゃんと開発しているんですよ(笑)
ただ、まだPepperには何ができて、何ができないのかが多くの人には理解されていないので、これからその点を啓蒙して行かなければならないと感じています
編集部
そのように感じるのはどんなときですか?
豊田
「一週間後に開催されるあるイベントにPepperを使いたい」と相談を受けて、詳しく聞いてみると、ステージにこうやってPepperが歩いて出てきて、こういうポーズを取って、こんな風に司会と掛け合いをして欲しい、といった要望でした。当社はリモコンでPepperを動かすアプリも作っていますし、できないことはないけれども、わずか一週間でリハーサルもなく、ステージの素材や幅などの詳細がわからない状態での準備は残念ながら難しいです、とお応えしました。
このケースのように、実際には「ロボットはすぐになんでもできるんでしょう?」と考えている人が多く、北海道でシステムやウェブを開発者している業者の中にもまだ「Pepperは何ができるのか、何ができないのかがわからない」という人も多いのが実状なんです。札幌ではまだPepperをそれほど見かけません。空港や大型モールくらいです。もっと札幌や北海道全域でPepperを普及させたいという思いがあります。だからまずは、Pepperに関する知識や経験を拡げていけるようにと考えて、それをやれるのはアトリエサテライトではないかなと。
開発者たちが気軽に集まってワイワイやれるアトリエにしたい
編集部
アトリエサテライトを札幌で開設することになった経緯を教えてください
豊田
会社の本業はデザイン関連企業なんです。印刷のデザイン全般を扱う会社で、書籍、カタログ、チラシなどの印刷物を使って、誰かが誰かに何かを伝えることを業務にしてきました。Pepperのようなコミュニケーションロボットも私にとってはその延長線上にあるんです。Pepperが家庭に入って、家族のコミュニケーションの推進役になったらいいなぁ、と感じました。
それでPepper用のロボアプリ開発などを始めたのですが、札幌ではまだまだPepperを見かけるのは稀なので、目先のビジネスよりまずは使ってみていただこうと、様々な形で啓蒙活動をしています。
札幌にもアトリエサテライトがあれば、開発者同士がコミュニケーションしたり、一緒にビジネスをするきっかけ作りにならないだろうかと考えています。
編集部
なるほど、ではアトリエ札幌ではPepperの開発者が集まるコミュニケーション・スペースにしたいと考えているのですね?
豊田
はい、まずは「開発者の方々には気軽に来てください」とお伝えしたいです。アトリエ札幌では、一般販売モデルと「Pepper for Biz」の両方を用意しておきます。既にコレグラフなどの開発ツールを活用してPepperの開発を行っている人たちは、パソコンを持って訪問すれば、実機のPepperに接続して実際に動作させたり、テストしたりすることができるようにします。
とはいえ、まだまだPepperのことは開発者にも一般の方々にも詳しく知られていません。Pepperはコミュニケーションロボットだから自由自在に話せるんだろう、自由自在に動けるんだろうと考えている人も多いと思いのですが、何ができて何ができないかをまずは知って欲しいと感じています。
こんな私ですから、アトリエサテライトもあまり効率だけを重視してゴリゴリと開発するだけではなく、楽しみながら一緒にPepper用ロボアプリをワイワイやりながら開発していきましょうよ、というスタンスがちょうどいい感じなのかなと思っています。
また、アトリエサテライトには開発者だけでなくご家族連れの方にも気軽に来てもらいたいですね。家庭用のPepperに目を向けていることはお話ししたとおりですが、Pepperの魅力はやはりそこにあります。ご家族連れやお子様にもPepperの魅力やコミュニケーションロボットの楽しさ、可能性を感じてもらえるようなイベントもおこなっていく予定です。イベントの予定はホームページ等でお知らせしていきますのでよろしくお願いいたします。
■「Pepperをプログラムで動かしてみよう(仮)」
8月4日(金)16:00~17:30(仮)
中学生以上の方向け
※参加ご希望の方はダイスまでご連絡ください(TEL:011-738-7830)
編集部
では最後にアトリエサテライト札幌に興味を持ってくれそうなロボスタ読者にひとことお願いします
豊田
ビジネスでのロボット活用はとても魅力的です。札幌で活動している企業や個人の方が、地域的なハンデキャップにならないように、アトリエサテライトに集まってコミュニケーションをとったり、技術を教え合ったり、時には仕事を紹介し合ったり、ビールを飲んだりしながら、ワイワイやれたらなぁ、と考えています。ぜひたくさんの方々に利用して頂きたいので、お気軽にご連絡ください。お待ちしています。
※この記事の内容はソフトバンクロボティクスのPepperを活用して、開発会社が独自に実施しているものです。