夢が未来を創る「第1回プラレス大会」開催 「プラレス3四郎」連載開始35周年記念
ロボットとの関わり方は人それぞれだ。ロボットを使ってビジネスを試みる人たちもいれば、ニーズにあったロボットを製造する企業もある。いっぽう個人のレベルに目を転じると、ロボット制作それ自体を楽しみ、もしくは同好の士を募って遊ぶための媒介とする人たちもいる。「ホビーロボット」と言われるジャンルだ。
2017年8月19日、ホビーロボットによる格闘トーナメント大会「第1回プラレス大会(http://k2g2.sakura.ne.jp/HMD_plawres/event_2017.html)」が神奈川県川崎市の「サンピアンかわさき」で開催された。この大会は、1982年から「週刊少年チャンピオン」に連載されたマンガ『プラレス3四郎』の連載開始35周年記念として開催された。
ホビーロボットによる格闘大会は、いわゆる「ロボコン」の一種として、ここ15年くらい行われている。既にご存知の方は説明するまでもなく、よくご存知だろう。いっぽうで、そんなのまったく知らないという方も少なくない。というわけで、まずは動画で、今回行われた試合の一つをご紹介しよう。第一回戦で行われた、「キングカイザー」と「バイオニクサー」というロボットによる対戦だ。
赤いロボット「キングカイザー」が両足でジャンプしてドロップキックを決めたかと思うと、白いロボット「バイオニクサー」が両腕で相手をがっちり掴んでバックドロップを決める。ホビーロボットは個人の制作物なので性能は製作者それぞれだが、トップクラスだと、こんな感じのバトルを観客たちに見せてくれる。
ホビーロボットの多くは関節部に位置や速度を制御できるサーボモーターを使い、そのモーターを「ブラケット」と呼ばれるアルミや樹脂のフレームで繋いでボディとしている。そして全身各所のモーターを胴体部に搭載したコントローラーとバッテリー、ジャイロなどのセンサー類を使って制御するというのが基本的な構成だ。
ロボットといっても、ホビー用二足歩行ロボットの場合の多くは自らのセンサー情報のみで動く自律動作ではなく、遠隔操作で動かす。操作はラジコン用のプロポを使ってコマンドを送る方式を使っている人が多い。ロボット自体の間合いや動作タイミング、そして操作そのものにも熟達しておかないと、勝負に勝つことはできない。
今は組み立てるだけで全身が完成するロボットキットも市販品されている。市販品を改造したロボットで大会に出場する人もいる。いっぽう中にはモーターまでほぼ完全に自作してしまう人もいる。様々だ。そういうロボットを練習会や大会に持ち寄って、みんなでわいわいと楽しむのである。ロボットの大会の雰囲気は競技会によって異なるが、二足歩行ホビーロボットの大会は、概して和気藹々としている。
製作者のなかには、趣味もロボットで本職もロボットといった筋金入りの人もいれば、大会を観戦して初めてロボットに触れて自作への道に進んだ人もいる。中には自分では特に作らず観戦専門の人もいるし、バトルはしないが同じように自作しているロボットをみんなに見せるために持ち寄るための場として活用している人もいる。中にはイベント開催側に回っている人もいる。こちらも様々だ。
「プラレス3四郎」とは
さて、今回の「第1回プラレス大会」は「プラレス3四郎」連載開始35周年記念大会である。「連載開始から35年」ということは、今の30歳台以下の人たちはご存知ない方が多いと思うので、マンガ「プラレス3四郎」についてもご紹介しておきたい。
「プラレス3四郎」とは、原作・牛次郎、作画・神矢みのるによるマンガである。マイコンをプラモデルに組み込んだ「プラレスラー」たちによる「プラレス」(プラモデル+プロレス)という小型の自作ロボット格闘競技を内容としていたマンガで、秋田書店「週刊少年チャンピオン」に1982年から1985年まで連載された。当時はプラモデルとプロレス、そしていまではパソコンと呼ばれている「マイコン」が人気だったのだ。
主人公は中学生の素形3四郎。主役ロボットは、3四郎が自作した1/6スケールサイズの人型ロボット「柔王丸」である。3四郎は「柔王丸」のオーナー兼モデラーとして様々な相手とバトルしていく。なお、念のためお断りしておくが「3四郎」は誤表記ではない。
マンガ連載中の1983年にはアニメ化もされ、翌1984年までTBS系にて全37話が放送された。スタッフは、チーフディレクター・湯山邦彦、シリーズ構成は藤川桂介。キャラクターデザイン・いのまたむつみ、メカニックデザイン・小原渉平、豊増隆寛。このほか、金田伊功、板野一郎といった著名なアニメーターたちが参加していた。
原作者の牛次郎氏が作詞した主題歌「夢操作P.M.P.1」には、当時は最先端のイメージだった「光ファイバー」や「コミュニケーション」といった言葉が使われ、多くの子供たちの心をくすぐった。何しろ1983年の話だ。ここで初めて「光ファイバー」という言葉に触れた子供もいたと思う。
アニメ版の「柔王丸」は玩具化を意識したスタイリッシュな外見が特徴だった。いっぽう、漫画版のほうはレスリング中に、ロボットの顔が、操作者である3四郎のようになるように演出されて描かれていた。アニメ版とマンガ版ではストーリー展開も異なるのだが、それぞれ、いまも根強いファンのいる作品である。立体物も、今でもフィギュアが販売されているほどだ。
小型の自作ロボットでのバトルを描いた「プラレス3四郎」は、いわば時代を先取りしていたことになる。今大会には原作者の牛次郎氏と、作画を担当した漫画家の神矢みのる氏の両名も特別審査員として臨席。往年のファンたちにはたまらない「御前試合」となった。牛次郎氏は「正直、驚いている。35年で(プラレスのような大会が)できるようになるとは思っていなかった」と語った。
15台のバラエティに富んだロボットたちが参加
今回の「第1回プラレス大会」では主催側の呼びかけに対して15台のロボットがエントリーした。出場するロボットは、コミック版「プラレス3四郎」に登場したプラレスラー、またはプラレスラーとして成立するオリジナルレスラーロボットであることが要件とされており、前述のロボットのほか、牛次郎氏がキッチンにあったカニ缶から「その場逃れのキャラクター」として考えたロボット「キング・カニカン」や、六本腕のロボット「キング・ボヘミアン」などが登場した。「ニンジャスター」は空手の演武を見せた。
神矢みのる氏は「大会が成立するのかどうか心配していたが、これだけのレスラーが揃って感謝感激」と述べた。
「プラレス3四郎」連載当時から35年が経ち、コンピュータは大幅に高性能化・小型化を果たした。残念ながらロボットのほうはパソコンほどではない。それはいまアニメを見直すとしみじみ実感する。まだまだアニメのようなアクションはまったく不可能だ。だが、やはりそれなりには進歩している。自作の二足歩行ホビーロボットによる格闘大会だけに限定しても、2002年に開催された第一回「ROBO-ONE(http://www.robo-one.com)」以来、継続して日本各地で有志によって開催されるイベントとなっている。今回のプラレス大会のリングも、ロボットプロレスとして開催されている「できんのか!(http://www.atamo-robot.com/dekinnoka.html)」のものだ。
試合は3分3ラウンド制。特に第一回戦の1ラウンド目はエキシビジョンとして、観客たちにアピールすることとされていた。わざわざ「5秒以内の反則はオーケー」とルールに明記されているところからも察っせられるように、バトルそのものもおおむね、まったりと行われた。そうは言ってもやはり強者同士の戦いでは絶妙のタイミングで大技が炸裂することもあり、そのたびに皆が湧いた。
連載当時の裏話も紹介
大会の合間には連載当時の裏話も紹介された。特に作画はピンチの連続であり、いつも印刷所の輪転機を止めて待ってもらっている、ギリギリの状態で仕上げていたという。連載誌だった「チャンピオン」には、あの手塚治虫氏も連載を持っていた。そのため神矢氏ら「チャンピオン」連載作家陣は、手塚治虫氏の原稿が入るのが本当のデッドラインだということを知っていた。ところがあるとき、手塚治虫氏の原稿が既に入稿されたことを知ったときには「顔面から血の気が引いた」という。そのときは原稿のコマを一コマずつカッターで切ってバラバラにして、アシスタント全員で手分けして必死で仕上げたそうだ。
原作者の牛次郎氏は「正直いうと原作が遅かった。おおもとの罪は僕のほうにあった。いちばん嫌なのは『このあとどうなるの?』と聞かれることだった。そんなもの考えてるわけないじゃない(笑)?
柔王丸がピンチになっているのは確かなんだけど、どうやって立ち直るかはぜんぜん考えてなかった。だいたい勝つんだけど、3週間後のことはわからない」と語り、会場の笑いを誘った。
「夢即未来」
さて、「第1回プラレス大会」の優勝者はベテランのロボットビルダーである「イガア」さん製作の「バイオニクサー」となった。
3.8kgの重量、圧倒的なパワーと動作安定性、得意の投げ技で観客たちを大いに魅了した「バイオニクサー」には、大会オリジナルのチャンピオンベルトが巻かれた。
準優勝に残ったのは0.8kgと軽量級ながら安定して動作した「ぽかたん」さんの「ダイナー」。ぽかたんさんは小学生だ。神矢氏は「小学生の方が準優勝までくるのは想像していなかった。漫画に近いよね」と惜しみない賛辞を送り、ぽかたんさんは「ロボットは難しいこともあるけど、楽しいこともいっぱいあるのでやる気が出る」とコメントした。
このほか、特別審査員賞として、牛次郎氏からは「夢即未来」と書かれた色紙が「エル・ウラカン」でエントリーした「くぱくま」さんらに、神矢みのる氏からは「キングカイザー」のマルファミリーに同じくサイン入り色紙が送られた。
「プラレス3四郎」連載当時には小学生や中学生だった子供たちも、いまでは40代となっている。今回の参加者たちのなかには、主人公「3四郎」のコスプレ姿で登場した方もいたし、中には「中学生のときに『プラレス3四郎』を見たことでエンジニアを目指して、今の自分がある」と語る方もいた。
皆が、子供のころ思い描いていた「プラレス」に興じていた。夢だけでは現実は変わらない。だが夢がないと未来は始まらない。35年前に描かれたフィクションが今もまだ少なからぬ人たちの心のなかに残り、輝きを放っている。それがまた新たな思い出となって共有され、次世代へと繋がっていくのかもしれない。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!