世界初の「ロボットオリンピック」となるか? 平昌五輪現地レポート ロボットスキーや案内ロボも
2018年2月9日に開幕した韓国・平昌(ピョンチャン)での第23回オリンピック冬季競技大会。この平昌五輪は「ICTオリンピック」を掲げており、5G、IoT、UHD(4K・8K)、AI、VRの5分野を中心にさまざまな取り組みが行われている。ロボットも多数導入されているとのことで、オリンピックにおけるロボット活用の現場をレポートする。
空港案内ロボットのお出迎えから
韓国における空の玄関口となるソウル・仁川(インチョン)国際空港の入国ゲートを抜けると、早速LGエレクトロニクス社製の空港案内ロボットが出迎えてくれた。自律走行型ロボットで、空港内の施設や公共交通機関、オリンピック情報などを案内してくれる。
音声認識による操作が可能で、賑やかな空港という環境でもしっかり言葉を認識してくれた。音声認識だけでなく、頭部ディスプレイでのタッチ操作にも対応しており、案内の内容は胴体の大型ディスプレイを使ってわかりやすく説明してくれる。もちろん韓国語だけでなく、日本語や英語、中国語など複数言語に対応している。
空港内の施設を問い合わせた場合は、ルートなどを表示するだけでなく実際に目的地までエスコートしてくれる。一緒に歩いていて遅すぎると感じることもない絶妙なスピードで、距離が開きすぎると「ついて来てください」とその場で待っていてくれ、人混みなどもうまく回避していた。
また案内機能だけでなく記念撮影モードも用意されており、平昌五輪のコンテンツは子どもや若い女性に人気だった。
オリンピック会場で出会えるロボットたち
オリンピック競技場周辺では公式マスコット「スホラン」の姿をしたロボットが歓迎してくれる。会話などのインタラクティブ機能はないが、身振り手振りを交えながら競技場の説明などを行っており、その可愛らしい姿から記念撮影のスポットとなっていた。
オリンピック施設内では、案内ロボットが働いていた。「スホラン」を模したデザインのこのロボットは、競技場施設内のほか、公式グッズストア(Super Store)や休憩所などでも見かけることができた。日本語を含む複数の言語に対応しており、オリンピックに関する各種情報の提供に加え、対話やエンターテインメントなどの機能などを搭載している(ただし仁川国際空港の案内ロボットと違って目的地までのエスコート機能はないようだ)。特に人気だったのが、オリジナルフレームで写真撮影を行ってくれる機能。撮影した写真は指定したメールアドレスに送信してくれる仕組みで、多くの観光客が利用していた。
また、公式グッズストアに置かれた水槽では、水の中を実際に泳ぐ魚型ロボットが展示されていた。さらに、オリンピック施設の一つである文化ICT館(Culture ICT Pavilion)では、魚型ロボットを操縦して水槽の底に映し出された映像のパックを打ち合うARホッケーゲームを楽しむことができた。
文化ICT館には芸術ロボットも配置されていた。このロボットは文化ICT館の壁面にペイントを施すというもので、毎日1時間程度の実演を行い、オリンピック期間中に1つの作品を描きあげる予定とのことだ。
パビリオンは最先端ICT技術のショーケース
オリンピック会場には公式スポンサー企業によるパビリオンが多く設置されているが、こうしたパビリオンでは「ICTオリンピック」の中心となる5GやUHD(4K・8K)、IoT、AI、VRの展示が目立ち、さまざまな体験型コンテンツが用意されていた。
たとえばヒュンダイ社のパビリオンでは、自動運転車の体験試乗が行われていた。レベル4の自動運転で、公道を含んだルートを約20分間走るという内容だ。また、車内には5Gネットワークを使ったタブレット端末が設置されていて、ライブカメラを見ながらIoT家電を操作できるほか、さまざまなエンターテインメント機能などを楽しむことができた。
世界初のロボットスキー大会が開催
オリンピック期間中は会場周辺でさまざまなイベントが催されており、その一つが2月12日に平昌近郊のウェリーヒリパーク(Welli Hilli Park)で開催されたロボットによるスキー大会「スキーロボットチャレンジ(Ski Robot Challenge)」だ。これはアルペン競技のスラロームを模した競技で、通過した旗門の数とフィニッシュタイムをロボットが競うというもの。ロボット開発でも名の通ったKAISTをはじめ、韓国国内の大学や研究機関、ロボット企業から8チームが参加し、メインの自律走行ロボットによる競技のほか、遠隔操縦ロボットによる競技も行われた。
現場は、氷点下6度を下回り強風の吹く過酷な環境で、ロボットも転倒や停止などさまざまなトラブルに見舞われていたが、リタイア・完走に関わらず大きな歓声が上がっていた。
2020年東京オリンピック・パラリンピックへ向けて
平昌五輪では数多くのロボットを見ることができ、韓国は国をあげてロボット産業を盛り上げようとしていると感じた。一方で一観光客の立場で振り返ると、物珍しさはあったものの、ロボットを頼るようなシーンはほとんどなかった。観客は厳しい寒さや会場間の長距離移動に追われて余裕がなく、またロボットにとっても過酷な環境で、導入場所や役割も限られると思われ、冬季五輪ならではの難しさを感じた。
今回、現地を訪れてロボット以上に印象的だったのは、ボランティアスタッフたちだ。平昌五輪では数多くのボランティアスタッフが参加していたが、極寒の厳しい環境の中、みな笑顔で懸命に親切な対応をしてくれた。運営スタッフや市民の対応も優しく丁寧で、何度も助けられた。ロボットを活用して、彼らをサポートすることはできないだろうか。
ロボットだけで完結させようとするのではなく、人(ボランティアスタッフたち)といかに協働できるロボットをデザインするかが、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたひとつのアプローチとなるかもしれない。
現地のロボットを動画で振り返る
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小野哲晴アスラテックのロボットコンサルタント。 2005年、ソフトバンク入社。法人向け/コンシューマ向けの両面において、さまざまなサービスの企画・運用に従事する。2010年、Ustream Asiaにてライブ映像配信サービスの立ち上げに参画し、プロダクトマネジメント、広告運用、ローカライズ、コンテンツ制作を担当。その後、国内最大手SNS運営会社勤務を経て、2016年よりアスラテックに転身。