マイクロソフト「de:code 2016」レポート(2) Microsoft AzureやOffice 365と連携するスマートロボットたち

2016年5月24日〜25日の2日間、日本マイクロソフトによる開発者向けイベント「de:code 2016」が開催されました。第2回目は、Palmi(パルミー)やPepperなどロボット関連の展示やセッション(セミナー)にフォーカスしてレポートします。

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ソフトバンクテクノロジーのブースでアンケートの受付をするPepper


Office365APIとアドオンで活用するスマートロボット

スマートロボットのオフィス導入を進めている株式会社ネクストセットは、主に「Office 365」のプラグインを開発・提供している企業です。de:code 2016では、セッションや展示ブースでDMM.make ROBOTS(DMM.com)のコミュニケーションロボット「Palmi」を展示し、ロボットをクライアント端末として「Office 365」と連携させる様子をデモンストレーションしていました。


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セッション「Office 365 API で進化するネクストセットアドオン」でデモをする株式会社ネクストセットの代表取締役 別所貴英氏

「Office 365」との連携デモでは、下記のようなことが行われました。

・会議の前にドリンクの注文をとったり、お昼の弁当の注文をPalmiが集計する
・メールの内容、カレンダーの内容などにアクセスして、内容や予定を読み上げる
・OneNoteと連携して議事録の保存
 Palmiが会議内容を録音しておき、OneNoteに音声データを転送、OneNoteから音声解析を行って(Microsoftのスピーチとコグニティブ関連のAPIを併用)、議事録を音声とテキストの両方で保存することができる。また、ホワイトボードの内容もPalmiのカメラで撮ってOneNoteに送って議事録とともに一元保存。
・PowerPointとの連携
 PowerPointのノート欄の読みあげをPalmiが行い、読み終わったことをアドオンに通知して次のスライドをめくる全自動プレゼンテーションも可能

ネクストセットはMicrosoftの各種APIを叩いて「Office 365」や「Palmi」と連携したシステムをアドオンで提供することで、従来はブラウザだったものをロボットに置き換えようという試みを行っています。

■ 連携の流れ

1.Palmi 会議を録音する
2.アドオン 録音したファイルをOneNoteとAPIに送る
3.MS API 音声解析(コグニティブ)とテキスト変換
4.アドオン テキストに変換された議事録ファィルをOneNoteで一元保存

企業の受付の場合でも、顧客の来社時にPalmiが社員と会議室のスケジュール情報にアクセスし、「当社の××とお約束の××様ですね。いらっしゃいませ。×会議室にお越しください」といった自動の受付と案内を行い、来客の通知をスカイプで担当者に知らせることも実現できるとしています。


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Office365APIとアドオンでロボットを活用

ちなみにPalmiビジネスサポートモデルの価格は398,000円(1年間、最大2回までの修理無償対応、受付用管理アプリ付き)、修理中の代替機の無償貸し出しがついたPalmiビジネスサポートモデルPlusは498,000円(ともに税別)。

ソフトウェアの価格はネクストセット社の「Office 365」用アドオンは1つ月額100円~で、Palmiとの連携の場合はロボット1体につき月額1,000円(年額プラン)で下記の機能が利用予定です。ロボットに対しては価格を安く設定していて、同社によれば「まずは普及を目指す」そして「デモは上手に動くように作られているが、実際にはお客様に導入して一緒に便利なものに作り上げていきたい」という思いで金額設定がされています。

■ 企業向け開発ソリューション(ネクストセット/サテライトオフィス)

オフィスアシスタント
 従業員の顔認識機能
 新着メールの読み上げ
 スケジュールの読み上げとアラート
 会議アジェンダや営業資料の読み上げ
 議事録の作成(前述)

アンケート収集スタッフ
 店頭や展示会場での顧客アンケート結果の収集
 アンケート結果のデータベース化

プレゼンテーター
 説明会や店頭デモ、製品説明
 PowerPointのプレゼンテーションを行う(ノート欄の読み上げ)
 ロボットにプレゼン用モーションの設定

受付業務
 ロボットが受付となり、社員を呼び出し
 飲食店や店舗等でタブレット等と連携したオーダー受付

なお、今回はMicrosoft de:code 2016のイベントなのでネクストセット社の「Office 365」アドオンをはじめとしたMicrosoft関連のクラウドサービスがデモされていましたが、同社の親会社であるサテライトオフィスでは、同様にGoogle Apps関連のシステムをPalmiで展開していく予定です。

・ネクストセット社ホームページ http://www.nextset.co.jp/
・サテライトオフィス社ホームページ http://www.sateraito.jp/
・サテライトオフィス社 Pepper連携プロダクト http://www.sateraito.jp/palmi/index.html


りんなとPALROが会話?

富士ソフトブースでは外部のAIとの連携をコンセプトに「PALRO」(パルロ)が展示されていました。ブースでは「りんな」と「PALRO」を会話させるデモ…のようでしたが、実際にはスタッフが話した言葉をPALROがテキスト変換してりんなに送信することで会話しているものでした。今回の展示のパルロはMicrosoftのコグニティブサービスの会話関連APIを使い、音声をテキスト化する認識精度を向上させた特別版。また、「展示用を兼ねた開発を通して会話ボットとPALROを接続してコミュニケーションできることが確認できたので、今後はマイクロソフト、セールスフォース、アマゾンなど公開されているチャットボットとパルロを接続して活用する研究を進めていきたい」とコメントしています。


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富士ソフトブースの「PALRO」。後ろの画面で「りんな」とPALROが会話している、と思いきや、PALROの言葉はスタッフが喋った内容をPALROがテキスト変換して送信したもの。ただし、この音声→テキスト変換にはMicrosoft Cognitive Servicesが使われていて、認識精度が高いとのこと。MicrosoftのCognitiveは期待できそうだ


Microsoftと連携するDMMのロボット戦略

今回は基調講演やセッションでは、DMM.comの「Palmi」の姿をよく見かけました。DMM.comは、単なるロボットの流通業者や小売りではなく、ロボットキャリアとしての位置付けを重視し、安全性を向上させた上で、一般家庭はもちろん、Office365やAzureと連携した法人利用でのロボット導入も推進していく考えです。


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DMM.comが展示した手前の白くて丸いロボット「TAPIA」と、奥の「Palmi」。Naoも展示されていた (TAPIA、なにもそんな顔しなくても…)

株式会社DMM.com ラボの一階 武史氏によれば「今回、当社はMicrosoft Azure IoT Certifiedデバイスとして「Palmi」と「Tapia」(タピア)を展示しています。また、今回のde:codeではMicrosoftが行う基調講演とスペシャルセッションでもPalmiを使ったデモを実施しています。これはPalmiがOffice365に対応したデバイスとしてMicrosoftに認知されたためです。

我々は唯一のロボットキャリアとして、一般家庭や企業の皆さんにロボットやロボットで動作するアプリを安心して使ってもらう仕組みを提供していきます」とのこと。


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DMM.com ラボ システム本部、事業サービス開発部 チーフ 一階武史氏

法人利用になるとロボットの端末管理と安全性が重要視されます。DMM.comはAzure Active DirectoryやOffice365と連携したり、本人「認証」や「認可」「端末管理」などを行うことかできる「DMMクラウドロボティクス」環境とSDKを用意する予定です。これがロボットキャリアとしての安全性と利便性の提供、という一端です。

例えば、Palmiを利用する際に、どこの会社のどの部署のロボットで、どんな権限があるのかということをグラウドを通して管理し、Azure Active Directoryで指定した権限と照合して利用許可や制限する機能を提供します。これにより各ロボット個別には認可設定を行う必要もなく、手軽にかつ安全性の高いデバイスとして利用できます。また「端末管理」としては、いつ誰がどのアプリをロボット経由で使用したか、社外で利用された場合は無断持ち出しの可能性もあるとして一時的に使用をストップするなどのしくみも導入されます。更に「課金管理」では、DMM.comの課金システムと連携したり、顧客独自の課金システムと連携し、使用料未払いのアプリの実行を制限する機能などが提供されます。


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DMMクラウドロボティクス 機能イメージ

Microsoftのプロダクトと連携すれば、グローバルなロボット展開も期待できます。現時点ではPalmiは日本語対応のみなので、グローバル向けに新しいロボットのリリースが待たれるところです。


Pepper × Microsoft Azure 協業の舞台裏

日本マイクロソフトの宮原 誠治氏によるセッション「Pepper × Microsoft Azure 協業の舞台裏 ~未来の商品棚から広がる世界~」では、基調講演でも紹介されたPepperとAzureの連携によって実現する「未来の商品棚」(仮称:今秋リリース予定)の詳しい解説が、実演を交えて行われました。

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未来の商品棚 待機する2台のPepper

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セッションの概要

「未来の商品棚」はPepperが店員となり、来店客の性別、年齢などを認識し、来店客の希望や問合わせを聞いて、最適な商品をPepperがリコメンドするクラウドサービスです。リコメンドする商品の検索や選定、説明等はPepperのネットで繋がれたMicrosoft Azureと連携して行っています。その際、巨大なディスプレイ「Serface Hub」に商品リストや商品の特徴、価格などがPepperの説明と連動して表示されるしくみです。

ただ、今回のセッションでは「Serface Hub」との連携に不具合があり、もっと巨大なプロジェクター画面をSerface Hubに見立てて、デモが披露されました。


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未来の商品棚のデモ:Serface Hubが不調のため、Pepperがリコメンドする商品をプロジェクターに写したところ

ロボット単体ではできることが限られていますが、ネット上のクラウドと連携することで今までできなかったことが可能になります。具体的にはAzureの下記のようなAPI群と連携して、店員Pepperが実現しています。ビッグデータでは機械学習とデータレイク(今後のキーワードのひとつになります)、クラウドAIでは翻訳やコグニティブサービス、自動会話ボットなどが技術的な要となっています。


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クラウド連携で活用される各機能

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このシステムのポイントとなる4つのアーキテクチャについて、それぞれ詳しく解説

「Azure Machine Learning」は、未来を予測して「自律的」に判断するアプリケーションをコードを書かずに素早く開発できる人工知能コアプラットフォームです。「Azure Machine Learning Studio」によるドラッグ&ドロップを基調にした、簡単なGUIでの操作等が実演されました。


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Azure Machine Learning Studioは、ドラッグ&ドロップを基本とした操作が可能

また、ディープラーニング技術などを利用した人工知能サービスAPI群も紹介され、Azure Cognitive Servicesでどのようなことが実践できるのかが一覧で見ることができました。


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ディープラーニング技術などを利用した人工知能サービス群(※赤枠とAPI種別はプレゼンテーションを参考に編集部で追加加工)

なお、Microsoft Cognitive Servicesの全API群の紹介は公式ホームページ(英語)で確認することができます。



最新テクノロジと魅力あふれる未来像

日本マイクロソフトの西脇 資哲氏によるセッション(Special Session)「マイクロソフト最新テクノロジと魅力あふれる未来像」でもPalmiとPepperが登場しました。このセッションでは、ウェアラブルデバイス、ロボティクス、自動車、鉄道、船舶、無人航空機、人/人工知能という項目で説明が行われました。


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Palmi、Pepper、ドローン、テスラ製自動車などが置かれた西脇 資哲氏によるセッションの様子。西脇氏は著書に「新エバンジェリスト養成講座」「プレゼンは「目線」で決まる」などがあり、セッションはいつも大人気

ロボティクスのパートで登場したPalmiは、受付を担当。来社したお客様の顔と名前、予定を認識して聞いてリストと照合、「Office 365」と連携して担当者を呼び出したり、スカイプにメッセージで通知します。


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受付を担当しているPalmi。西脇氏の顔と名前から予定を確認

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「新エバンジェリスト養成講座に参加のニシワキ様が会議室にいらっしゃいました」という通知がスカイプで行われる

また、Palmiが飲み物の注文を音声で受けて、エクセルの注文シートに飲み物の種別と個数が入力される様子を紹介するデモでした。

■ デモの会話の流れ

西脇「飲み物を持って来て」

パル「お茶の方は何名ですか?」

西脇「4人です」

パル「コーヒーの方は何名ですか?」

西脇「4人です」

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Palmiが会話で受けた注文が「Office 365」のエクセルシートに転送入力されたところ

Pepperは見守り機能をデモンストレーション。Pepperは西脇氏を顔認識してスケジュールにアクセス、「西脇さん、この後、出張の予定ですね♪」と言います。西脇氏は出張に出かけるので、留守中にデスクの周りを見張っていて欲しいと依頼します。

Pepperの見守りを開始します。少しするとスタッフがやってきて、パソコンを1台、デスクに置いて去って行きます。

西脇氏が戻ってきて「Pepper、なにかあった?」と聞きます。するとPepperは「誰か来ました。机の上にパソコンとリンゴが置いてあります」と報告。西脇氏は「パソコンとリンゴって、こ・・このMac Bookのこと?」と言って場内は爆笑につづまれました。


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「パソコンとリンゴって、こ・・このMac Bookのこと?」

演出が入っていた感がありますが、Pepperの物体認識機能を使った楽しいデモンストレーションでした。



展示ブースのPepperはアンケートの受付&集計

展示ブースではソフトバンク・テクノロジーのブースでPepperがアンケートの収集を行い、その結果がAzureに送られてリアルタイムで集計される様子がデモされていました。


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Pepperがアンケートを受付

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常時多くの来場者に囲まれるPepper

その他、サイオステクノロジーのブースではNaoが客寄せ担当として活躍していて、集客には大変効果があるとのことでした。

de:code2016でも様々なところで活躍していたロボットたち。

豊富なライブラリやAPI、コグニティブサービスや優れた画像認識機能等で充実度を増すMicrosoft Azure、普及率の高い「Office 365」などと連携したロボットアプリ開発者が、今後ますます増えることを願って、レポートを締めさせて頂きたい思います。ではまた!!


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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