「ロボスタさん、一番良いコミュニケーションロボット教えて?」って聞かれても困るという話
最近、話題沸騰中のコミュニケーションロボット。既に市販されているものもあれば、今後市販が期待されるロボットもある。それらを合わせると数十種類は近いうちに購入可能になる。もし購入するとしたら、どのロボットを購入すべきか迷うことだろう。実際、「ロボスタさん、一番良いコミュニケーションロボット教えて?」とよく聞かれるようになった。その回答として、今回は「ベストなコミュニケーションロボット」について考えてみたい。
ロボットに詳しいロボットスタート?
創業以来、あらゆるコミュニケーションロボットを追いかけ続けているロボットスタート。日々ロボットメディア「ロボスタ」で様々なニュースを取材・発信しながら、様々なロボットメーカーに対するコンサルティングを行っている。立場上、発売前のロボットに触れる機会も多い。定期的にロボット業界カオスマップを発表しており、多くのコミュニケーションロボットを見てきているのは間違いない。コミュニケーションロボットに関する知見はそれなりに蓄積してきたという自負もある。
だから、人から僕らが一番良いコミュニケーションロボットはどれなのかを知っていると思われてしまうこともわからなくはない。
しかし、実際その質問は答えに非常に困る。ロボットについて詳しくなればなるほど、どれか一つのロボットを選ぶのは難しく、頭を抱えてしまうのだ。
「暮しの手帖」の商品テスト
少し話が逸れるが、現在NHKで放映中の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」をご存知だろうか。家庭向け総合生活雑誌『暮しの手帖』を題材にしたドラマだ。劇中で、「商品テスト」と呼ばれる「複数メーカーの生活用品や家電製品の比較レビュー」のコーナーが取り上げられているが、その徹底的なテスト手法には目を見張るものがある。
暮しの手帖が比較テストしてきた「商品」は基本的に目的・機能が同じものだ。例えば、洗濯機を特集したり、掃除機であったり、炊飯器であったり。毎号違う単機能な商品テーマが選ばれ、メーカー各社の市販商品をすべて取り揃えて、同じ内容のテストを複数回行っていく。使い勝手はもちろん、洗濯機であれば汚れの落ち具合、騒音、耐久性など、複数の項目を客観的に数値として記録して、評価するというものだ。
広告主から圧力を受けないように広告を一切とらなかった編集・経営方針も異例だった。徹底して消費者視点で、その商品テストの良し悪しをバイアスなしに公表してきた歴史がある。(残念ながら、この「商品テスト」コーナーは2007年に編集長が変わってからコスト高を理由に廃止となったけれど。)
では、コミュニケーションロボットを「商品テスト」するとしたら、どうだろうか。
コミュニケーションロボットの商品テスト
商品テストは、その同一の目的・機能を客観的に評価しうる指標で比較していくアプローチだ。一方、現在登場しているコミュニケーションロボットは、その目的も機能も各メーカーによって違う。
単純に表面的なスペックや機能で比較するのはもちろん容易い。サイズ、重量、可動部位、センサー、ディスプレイ、バッテリー持続時間、音声認識エンジン、音声合成エンジン、顔認識エンジン、雑談エンジン、そして価格やオプションなどなど、比較項目は限りなくある。実際ロボットスタート社内にはそれらをまとめた非公開の資料がある。しかし、その各スペックをまとめた一覧表を眺めても、結局のところ、どれが良いロボットなのかはわからない。別に可動部位が多くて安いロボットがベストというわけでもないだろうし、例えば、サイズは大きい方がいいのか、小さい方がいいのか、それすら絶対的な一つの答えはないからだ。
掃除機であれば掃除するという目的は明確で機能も数値化し易い。では、コミュニケーションロボットの目的はなんだろうか。言葉の定義通りに捉えれば、本質的にはコミュニケーションをすることが目的だが、そのコミュニケーションの目的が人によって違ってくる。「コミュニケーションを通じて何ができるのか」ということも、メーカーによって目指すところは全く違う。法人利用で受付に立たせるのか、自宅のテーブルにおいてみんなで使うものなのか、部屋の中を自由に動き回って外から見守りができるものなのか、教育に主眼をおいたものなのか、ペットのように癒やしを目的としたものなのか・・・その利用方法を上げたらキリがないほどだ。
ひとつひとつの機能だけをテストするにしても、その評価はとても難しい。例えば音声認識を評価する場合、テスターの喋り方によって、まったく認識精度が違う結果が返ってくることも少なくない。大阪弁に対応してるのか、子供の声で反応できるのか、ゆっくりしゃべるのか、大きな声がいいのか。そもそも普通の喋り方とはどういうものなのだろうか?
結局、コミュニケーションロボットを正しく評価するために、何を切り口にすれば良いのかすら正しい方法が見当たらない。だから、僕らには、一番良いロボットなんて客観的に語れないという結論になってしまうのだ。
広告をとらなかった暮しの手帖と、ロボットスタートではもちろん違う部分はある。しかし、ロボットスタートがロボットメーカーへのコンサルティングを行ったり、広告費をもらっているからといって、そのロボットをメディア上でことさら良く扱うことはしていない。当然読者の為になるように作っているメディアであり、露骨なメーカーびいきはありえない。良くないところは記事にする以前に、プロトタイプの段階でメーカーに指摘し、改善してもらうのが仕事でもある。念のため補足すると、組織上も業務上も、営業部門とメディア部門は独立・分離させている。
営業上の観点があろうがなかろうが、「一番良いロボットはどれ?」と聞かれても、やはり答えは出せないのだ。
ベストなコミュニケーションロボットとは
上記で見てきたとおり、商品テストのような評価方法では「ベストなロボット」は決められない。
でも結論はある。ありきたりだが、「自分が気に入ったロボットがベストなコミュニケーションロボット」というのが答えだ。いい加減に答えているのではなく、本当だ。
見た目のデザインも、価格が妥当かどうかも、目的に応じた使い勝手も、結局使う人によって違う。しかし、あなたが気に入ったロボットがあたなにとってベストに間違いはない。僕にとってのベストなロボットと、あなたにとってのベストなロボットが違うかも知れない。しかし、それはそれで良いのではないだろうか?
現状、総合的に見て、コミュンケーションロボットの中に突出して優れているプロダクトがあるとは言い難い状況だ。メーカー想定の利用シーンとユーザーの使い方がマッチするかどうかが最も重要で、それぞれのプロダクトの良し悪しはその次の話なのだ。結局、ロボットに何を求めるかがすべてだ。そして、それはすべてあなた次第なのだ。
僕にとってのベストは、、、、まだない。が、ベターはいくつかある。それはまたの別の機会に。
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中橋 義博1970年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。大学時代、月刊ASCII編集部でテクニカルライターとして働く。大学卒業後、国内生命保険会社本社において約6年間、保険支払業務システムの企画を担当。その後、ヤフー株式会社で約3年間、PCの検索サービス、モバイルディレクトリ検索サービスの立ち上げに携わる。同社退社後、オーバーチュア株式会社にてサービス立ち上げ前から1年半、サーチリスティングのエディトリアル、コンテントマッチ業務を担当する。2004年に世界初のモバイルリスティングを開始したサーチテリア株式会社を創業、同社代表取締役社長に就任。2011年にサーチテリア株式会社をGMOアドパートナーズ株式会社へ売却。GMOサーチテリア株式会社代表取締役社長、GMOモバイル株式会社取締役を歴任。2014年ロボットスタート株式会社を設立し、現在同社代表取締役社長。著書にダイヤモンド社「モバイルSEM―ケータイ・ビジネスの最先端マーケティング手法」がある。