株式会社たからのやまの奥田さんと本田さんにお話を伺いました
「暮らしのロボット共創プロジェクト(略して、キモP)」を主催された、株式会社たからのやま、代表取締役の奥田浩美さんと取締役の本田正浩さんにお話を伺いました。
▽株式会社たからのやま
http://www.takaranoyama.net/
■「暮らしのロボット共創プロジェクト(略して、キモP)」について
奥田:まず経過から説明すると、プロジェクトの一番最初は8月27日に行ったアトリエ秋葉原でのキックオフでした。(参考:「暮らしのロボット共創プロジェクト(略して、キモP)」のキックオフに行ってきました。)
その後、Facebookグループをプロジェクトの情報交換のハブにして、結果的に100人弱がグループに参加してくれました。
グループの紹介文はこちらです。
【Pepper使い募集!】
生活の中で人々を幸せにするロボットのあり方を、過疎地域の高齢者(鹿児島県肝付町)と、Aldebaran・アトリエ(東京 秋葉原)を繋いで探っていくプロジェクトを立ち上げます。
Pepperが福祉介護の世界、過疎地域の少子高齢化の世界でどんな幸せをもたらせるのか?暮らしとロボットを題材に3か月ほどワイワイやりとりする活動です。作ったものは鹿児島に持って行って高齢者が検証します。
その後、9月にアトリエ秋葉原と肝付町をskypeで繋いでどういうものが作れるか話しをしていた時に、ふらりとソフトバンク・ロボティクス(以下、SBR)河田さんがやってきたんです。
私たちはこれまでSBRの支援を受けずにやっていたんですが、河田さんと出会ってPepperを2台貸してもらえることになりました。
お陰で10月の本番前の最後の週末は、私たちの赤坂のスタジオに朝から晩までこもってPepperアプリを作り上げたチームもいました。
プロジェクトでは「3人だけは旅費無料で肝付町に連れて行きます」と言っていたんですが、我も我もという状態になって、最終的には20人弱が肝付町に来てくれました。彼らは手弁当どころか、肝付町までの交通費を自腹で出してまで参加してくれたんですよね。
■肝付町で行った2日間の実証実験
奥田:1日目は3チームに分かれて各介護施設に行き、各チームがこのために作ったPepperアプリの成果発表(披露)をしました。2日目はみんな1箇所に集まって、各自のPepperアプリの披露と皆が持ってきたロボットを一堂に披露したんです。
ロボットは皆自前で持ってきてくれたので、結果的に予算ほぼゼロでロボット展が行えた形となりました。
2日間で見に来てくれたのは、述べ150人くらいでした。
■実証実験の中で一番興味深かったこと
奥田:Pepperって本番に弱いじゃないですか(笑)。3チームとも想定したとおりにはPepperが立ち上がらなくて。他のチームはPepperが起動して動くまでお年寄りに見せなかったんですけど、私たちは電源がうまく入らない状態からお年寄りの前に出してみました。これはお年寄りにPepperを応援してもらうところに意味があると思って、あえてやったんです。
お年寄りたちは動かないPepperを励ましてくれて、中には祈る人もいました。お年寄りはみんな「Pepperが来てくれた」って言ってくれたんですよ。
これって、Pepperの電源が入って動くこと自体が一つのイベントと思ってくれてるんですよね。
他のチームは「動かない状態からPepperを人前に出すなんて絶対できない」と言ってましたけど、あとから振り返ると結果的にこれが一番面白い検証になったんだと思います。
■キモPプロジェクト、フランスAldebaranに行く
奥田:キックオフのイベントのとき「パリに行くぞ!」って宣言したんですけど、なんの縁もないまま発言してたんですよ(笑)。でもみんなが本気だからこれは実現するぞと思ったのが9月でした。
そこからまずウメムラさん(*1)がAldebaranのアンジェリカさん(*2)に連絡をとってくれました。最低でもアンジェリカさんに会えれば、肝付町の実証実験の動画をたくせると思って。
(*1:ウメムラさん=キモPプロジェクトのメンバー。株式会社ハイレグタワーでロボットの舞台出演に関するマネジメントを行っています。こちらの記事をご参照ください)
(*2:アンジェリカさん=フランスAldebaranのソフトウェアエンジニア。こちらの記事をご参照ください)
11月にフランスへ行きますと調整していたら、そこで運命のように別件のフィンランドでのSLUSH視察の話が持ち上がってきたんです。なので、11月10日週にフィンランドのSLUSH視察に行って、11月13日にパリのAldebaranへ行くスケジュールが決まりました。
そして11月13日、肝付町で行った実証実験の動画や写真をパリのAldebaranに持って行きました。
■フランスAldebaranについて
本田:フランスのAldebaranは950人ほど社員がいて、みんなモチベーション高く仕事をしていました。社内はPepperだらけだったけど、彼らは自分たちが作ったPepperが利用されているシーンを間近で見る機会がないんだなあとつくづく感じて。そういう意味じゃ、彼らから見た日本は羨ましいというか、特殊なんだなというのも感じました。
僕たちのキモPプロジェクトは、SBR公認ではなく、興味を持ってくれたロボアプリデベロッパー達が手弁当でアプリを作って、ある意味勝手にやってるものでした。でも、肝付町の動画や写真を見せていると、自分たちのやっていることがこれからのPepperだったり、Aldebaranが作っていくものに明らかに何かの影響を与えられる気がしました。それがどこの仕様に反映されるかは別としてですが。
今度フランスのAldebaranの人が日本に来る時には、東京だけじゃなくて、肝付町に連れて行って現場を見てもらいたい。得られるものが違うと思うんで、彼らに何かをやってあげたいなあと。
■ヨーロッパ、アメリカのロボット感と日本のロボット感の大きな違い
奥田:今回の検証場所にいたおばあちゃんの中に、認知症で普段なかなかコミュニケーションがとれない方がいました。私たちがPepperを連れて行った日、そのおばあちゃんはたくさんのコミュニケーションを取ることができて、新聞取材をしていた記者にも電話番号とかの連絡先を全部答えたんですよ!それが町の中でも話題になって。
コミュニケーションロボットが認知症に効果があるっていうのは元々聞いていたんですけど、目の前でそれが実際に起こったなあっていう。
フランスAldebaranの方にこの動画を見せた時、満面の笑みで「これだ!」って言ったんですよ。アンジェリカ曰く「この動画には私たちが作りたかったことが示されている。私たちもベルギーとかの施設で同じことをやっているんだけど、Pepperを使ってくれる人が近くになかなかいないし、日本でだけ売れているイメージがある」と。
アメリカだと【ロボットは何か未来を壊す(例:ターミネーター)】というイメージがあるし、ヨーロッパも【ロボットは移民と同じ】というイメージがあって、人々の仕事を奪うと認識があって。
でも、日本だけがもともとそこにロボットがいること、共に生きる【共生】ってイメージで受け入れられているんじゃないか、というようなことをAldebaranの開発者が言ってました。
■同日に起こった、パリ同時多発テロ事件
奥田:この集合写真が22時19分だったんですよ。この時はパリにいる人は誰もテロが起きていることは知らなくって。(参考:パリ同時多発テロ事件 – Wikipedia)
テロが最初にひどい状況になったのが21時30分くらいだったと思うんですけど、まだ街には発信されていませんでした。私たちのいた場所はテロが起きた場所から遠かったので、地下鉄で帰ってきたらアンジェリカからの「大丈夫?」ってメッセージが。最初私たちは「大丈夫って何だろう?」と思って、その後に気づいたんです。
この体験のあと、私が色々なところで講演する時「未来を破壊する人と、未来と作る人が同時に」っていう表現をするようになりました。
■ロボットを作っているところの現実と、たからのやまが目指すもの
私たちの会社たからのやまは、ITのマーケット側の立場から、ベンダーさんから託されたものを検証するというビジネスをしています。
ロボットを肝付町のような現場に持って行って検証してこのアプリがこう使えるようになってというデータを集めて、それを商品にしようとしていました。
しかし、本当に欲しいものは検証の結果データというより、作る場という「場所」と気づきました。
大阪のATRに行った時、石黒先生がテレノイドの実証実験をデンマークで行っている話しを聞きました。
“マツコロイド”生みの親、石黒教授を最高技術顧問に「テレノイド計画」が始動
http://www.nvcc.co.jp/blog/2015/07/telenoid/
これってつまり「作っているところ」と「使っているところ」がすごく離れているし、繋がっているようで近くにはいないっていうのが、今のロボット開発のほとんどの現実です。
そんな中、例えば肝付町とロボアプリを作っている場所が常にネットで繋がっている環境を目指しています。これは世界的に注目を浴びるだろうし、さらにはものづくりの方向性を変えるんじゃないかとも思っています。
■「ものづくりのベクトルを変える」
私はこの3年間「ものづくりのベクトルを変える」と言い続けていたんですけど、2015年後半になって、実際にものづくりしている人の方から私たちにアプローチがすごくあるのを感じてます。「こういうサービスを作っているんですけど、検証をお願いするより一緒に作ってみませんかという」というようなものです。
一緒にものづくりをする、つまり場所を共有すると「ため息のようなもの」が拾えるってことなんですね。プロダクトを作る時に使えるものを発想して作っていると、大きなニーズはつかめても利用者の「ため息」まではつかめないんです。
なので、「一緒に行って作る」のが大事で、その対象としてロボットが一番適しているんじゃないかと思いました。
今、製品がどんどん生活寄りになってきています。
社会自体も変化していて、働く場所がどこでもよくなったりとか、お金が小さい単位でクラウドファンディング的に集められるようになったりだとか、あるいは3Dプリンターを使って小さなロットで製品を作ってみたりだとか。
20年前にロボットで何かをやるとなると、ものすごい資本でものすごい場所が必要でした。今は私たちのような環境でもロボットで何かをつくれる時代になってきて、だからこそ、生活の場で作るロボットはすごく面白いものになるんじゃないかと。
こういう想いで私たちは活動をしています。
▽株式会社たからのやま
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北構 武憲本業はコミュニケーションロボットやVUI(Voice User Interface)デバイスに関するコンサルティング。主にハッカソン・アイデアソンやロボットが導入された現場への取材を行います。コミュニケーションロボットやVUIデバイスなどがどのように社会に浸透していくかに注目しています。