ロボットっぽくないデバイスとコミュニケーションできる?〜コミュロボの本質を探る
今回はコミュニケーションロボットの本質について少し考えてみたい。
コミュニケーションロボットとは?
コミュニケーションロボットの定義は、言葉の通り「人間とコミュニケーションできるロボット」と考えるのが自然だろう。
ここで言う「コミュニケーション」の意味について少し整理しておきたい。コミュニケーションは一般的に「言語を使ったやりとり(バーバルコミュニケーション)」と、「非言語のやりとり(ノンバーバルコミュニケーション)」に分類される。
バーバル・コミュニケーション
言語ベースのやりとりがバーバルコミュニケーションだ。現状のコミュニケーションロボットはバーバルコミュニケーションを前提としているものが主流だ。
タスク志向のコマンド的な対話が中心で「天気教えて」と伝えれば、天気アプリが起動して、天気を答えてくれる。もしくは「おはよう」に対して「いい朝ですね」と用意されたシナリオに沿って回答する。
ノンバーバル・コミュニケーション
一般的に、言語を使わないノンバーバルの例をあげると、僕は猫を飼っているので、猫に擦り寄られてにゃ〜と鳴かれれば餌が欲しいのだろうと理解できる。これは言語を使わないのでノンバーバルのやりとりだ。もちろんロボットの世界においても、ノンバーバルなロボットを指向するプロダクトもあり、これはとても興味深いものだ。
例えば猫型や犬型のペット型ロボットはノンバーバルな仕組みで違和感がないロボットの典型例だろう。
注目事例としてはGroove Xがある。
彼らが現在開発中のロボットは、ノンバーバルを前提としていることを発表しており、製品化が待たれるロボットのひとつだ。
バーバルとノンバーバルの組み合わせが理想
実際の人間同士のコミュニケーションは、バーバルとノンバーバルを組み合わせた複合的なコミュニケーションになっている。言葉以外に、表情、顔色、視線、身振り、手振り、体の姿勢などの非言語的な情報も使われている。チャットやメールよりも対面してやり取りしたほうが円滑なのは、これらの非言語情報の影響が大きい。
当然のことながら、コミュニケーションロボットのあるべき方向として、人間同様、バーバルとノンバーバルの組み合わせによるコミュニケーション手法を採用すべきだろう。ロボットの音声認識・音声合成によるバーバルなやりとりは現状で出来ている。ロボットが人間の表情を読み取り、ロボット自体も感情表現できるようになれば、ノンバーバルなやりとりも組み合わせることができる。これらはPepperに組み込まれており、技術的にも研究が進んでいる領域のため、近い将来このようなロボットが多く登場してくるだろう。
石黒教授が生み出した「テレノイド」は、膝の上に置かれたり、抱きかかえられる事を前提に作られている。会話をしながら首や手を動かすことができ、それにより人間側の抱っこしている感覚が増幅する。複数の感覚を同時に刺激されることになるため、通常のロボットとは一味違う印象を受けるロボットだ。これもバーバルとノンバーバルの組み合わせの実例のひとつと言えるだろう。
コミュニケーションロボットはなぜロボットぽい形なのか?
よくロボットスタートで話題になるのは、「SiriやGoogleなどスマートフォンの音声認識システムを日常的に使うか?」という話だ。
さて。あなたはスマホに話しかけるだろうか?・・・実際、僕はこの話をいろいろな人に聞いているのだが、使うという人は実は限りなく少ないのだ。少なくとも日本人は。(日本人にしか聞いてないから。)
一方、日本人は現在市販されているコミュニケーションロボットに話しかけることに抵抗を持つ人は少ない。イベントや店頭に展示されているロボットに皆普通に話しかけるのをよく目にするだろう。
・・・つまり、スマホには話しかけず、ロボットには話しかけるのが日本人なのだ。
これは何を意味しているのだろうか。あくまで仮説だが「擬人化された(もしくは生命を感じさせる)ものには話しかけやすいが、そうでないものには話しかけにくい」ということではないだろうか。シミュラクラ現象と呼ばれる、人間の目には3つの点が集まった図形を人の顔と見るようにプログラムされている脳の働きも影響しているかもしれない。人間っぽさをそのロボットから感じることができれば、その相手に話しかける抵抗感が減るということではないだろうか。
なお擬人化という意味で最もミニマルなデザインなのはアメリカのJiboだろう。擬人化要素は、なんと眼球は1つのみ。しかし、その眼球の動き、ボディの動きが絶妙で十分、命を吹き込まれたロボットと感じる。
ロボットぽくないロボット
一方、海外ではAmazon EchoやGoogle Homeといったまったく擬人化要素のないロボットが登場している。
果たして日本人はこれに抵抗を感じないのだろうか。これらのロボットに2つのLEDを目のようにつけて、擬人化した方が、よりとっつきやすいのではないだろうか?・・・実際の使用感については、日本に導入される際に、ロボスタでレポートしたいと思う。
ロボットっぽくないデバイスとコミュニケーションできる?
結局のところ、「ただの物体」に話しかけることに違和感を感じない人にとっては、ロボットの擬人化はコスト的には無駄な話だ。そもそもスマートフォンに話しかけられるならば、コミュニケーションロボット自体の存在価値はあまり高くはないのが現状だ。
しかしスマートフォンに話しかけにくい人、つまりほとんどの日本人にとっては、現在主流の擬人化されたコミュニケーションロボットはとても有意義なものだと思う。擬人化されているからこそ、話しかけやすいだけでなく、愛着も湧きやすいだろう。
今後グローバルに、擬人化されたロボットが主流になるのか、擬人化されていないロボットが主流になるのかは現時点ではわからない。しかし、そのトレンドはロボスタできっちり追いかけていきたいと思う。
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中橋 義博1970年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。大学時代、月刊ASCII編集部でテクニカルライターとして働く。大学卒業後、国内生命保険会社本社において約6年間、保険支払業務システムの企画を担当。その後、ヤフー株式会社で約3年間、PCの検索サービス、モバイルディレクトリ検索サービスの立ち上げに携わる。同社退社後、オーバーチュア株式会社にてサービス立ち上げ前から1年半、サーチリスティングのエディトリアル、コンテントマッチ業務を担当する。2004年に世界初のモバイルリスティングを開始したサーチテリア株式会社を創業、同社代表取締役社長に就任。2011年にサーチテリア株式会社をGMOアドパートナーズ株式会社へ売却。GMOサーチテリア株式会社代表取締役社長、GMOモバイル株式会社取締役を歴任。2014年ロボットスタート株式会社を設立し、現在同社代表取締役社長。著書にダイヤモンド社「モバイルSEM―ケータイ・ビジネスの最先端マーケティング手法」がある。